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「ダイアリー様。どうして僕なんかをお誘いくださったんですか?」
勇気を振り絞ってダンスに誘った私の手を取る前に、コルク王子は俯いていた顔を上げてブルーの瞳を片方覗かせた。
その瞳があまりにも美しくて、ずっとドキドキしていた胸はさらに鼓動を速めて、足先から頭のてっぺんまで一気に熱が上がり。混乱と焦りと興奮で、私の頭は爆発してしまった。
「わ、わた、わたくしはっ…………あ、貴方様が………そう!!お独りでお可哀想だったからお誘いしただけです!!け、決して、貴方様と踊りたかったとか、そういうわけではございませんから!!」
シーンと静まり返った空間で、私の荒い息だけがゼーハーと繰り返される。
冷静さを取り戻した時には、もう色々と遅かった。
「あ……えっと、ちがっ」
「お気遣いいただきありがとうございます。ダイアリー様。しかし僕は独りでも全然平気ですので……どうぞお気になさらず。他の方々と踊ってきてください。それでは」
「え!あ、まって!」
深々と頭を下げると、コルク王子はその場から逃げるように立ち去ってしまった。
「どうして……こうなるの」
ダンスに誘うまでは順調だったのに。予想だにしていなかった質問と、普段滅多に相手と目を合わせないコルク王子が、私と目を合わせたという驚きと興奮で、頭が真っ白になってしまった。
「ねぇ見て。またあの女王様よ」
「あんな言い方しなくてもいいですのにねぇ~?コルク王子もお可哀想に」
「まぁコルク様も、何を考えてるかよくわからない方ですから。イラつく気持ちは分からなくもないですけど」
コソコソと聞こえてくる悪口と、笑い声。
周りの視線が私の背中に刺さる。
私だけならいい。
でも、王子まで悪く言われるのはムカつく。
「いや……そうさせたのは私のせい」
コルク王子を傷つけているのは、私だ。
「おやおや。またかい?レイチェル」
周りの空気に耐え切れず。外へ出て庭のベンチで座り込んでいると、背後から声をかけられた。
月の光に照らされた金色の髪。長い睫毛の下から見える薄緑の瞳で見つめられれば、自分の心がまるで浄化されるかのように美しい。
きっとこの人は、夜でも朝でも昼でもどんな時でも宝石のように輝いているであろう。
そんな完璧王子であり、私の想い人の兄でもある。アスカ・ヴェルデーク王子が私の側に来て、笑みを浮かべていた。
「……どうも。アスカ様」
「あはは。アスカでいいっていつも言っているのに」
「別に私は、アスカ様とそこまで親しいわけではありませんので」
何処かへ行ってほしくてわざと素っ気ない態度をとっているのに、アスカ王子は全く気にする素振りを見せず。何故かそのまま隣に腰を下ろした。
きっと他の女子なら、隣に座られたという喜びに感激して失神しているところなのだろうが。私はこの男に全く興味が無い。
女性の気持ちを読む取るのが得意なアスカ王子なら、そんなこととっくに気付いてくれているはずなのに……彼は、何故か毎回私に絡んでくるのだ。
おかげでアスカ王子に対してだけは、この刺々しい口調で話すことに抵抗がなくなってしまった。
「それで?一体何の用事ですか?私とアスカ様が一緒にいるところを他の女性陣に見られたら、困るのは私なんですが」
「あはは!確かにそうだね!こんなところ、コルクに見られたら困るもんね!」
図星を突かれて、思わず固まってしまった。
「そ、それは……」
「ダンスに誘うまではよかったのに。残念だったね」
「うぐっ」
アスカ王子は、私がコルク王子をお慕いしていることを知っている。
そして、毎回失敗していることも知っている。
「いい加減諦めたらどうだい?コルクは昔から臆病で人見知りなんだ。レイチェルのそのツンデレを治さない限り、付き合うのは無理だと思うよ?」
「だ、誰がツンデレですか!!」
って、反抗したものの。アスカ王子の言う通りかもしれない。
このままでは好かれるどころか、嫌われる一方だ。
「よし!!次こそは、優しい口調で誘いますわ!!」
「無理だと思うけどなぁ……」
「大丈夫ですよ!だって嫌われたくありませんから!」
「気持ちだけで解決することかな?」
「ゆっくり。落ち着いて。頭を整理させながら話せばいいのですよ!!イメージは湧いてきました……これならきっと!!」
と、毎度意気込みだけは良い私。
結果は勿論……。
「散々でしたわ」
「だろうね」
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