赤薔薇の女王様

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私がコルク王子を好きになったのは、七歳くらいの頃だった。 あの日は友人の誕生日パーティーに参加していたのだが。またいつもの刺々しい言葉が出てしまって、私のせいで折角の楽しいパーティーは台無しになってしまった。 「やっと出来た友達だったのに……」 友達を怒らせて、他の子達からは邪魔者扱いされてしまった私は、その場から逃げるように立ち去った。 きっと、あの子とはもう友達に戻れない。 それどころか、他の子達からも嫌われてしまった。 また独りぼっちになった寂しさと自分への怒りに、私は家にある薔薇園のベンチに座って、ずっと泣いていた。 そんな時だった。 「ば、薔薇……綺麗ですね」 恐る恐る私に近づいて、不安と緊張で弱弱しくなった声で呟く一人の男の子。 少し俯いているせいで前髪で隠れた目は見えなかったが。頑張って作った引きつった笑みは、どこか私と似てるような気がした。 きっとこの子も、周りの目が怖いんだ。 だから周りに溶け込めるように頑張ってみるけど。結局それでも皆と同じようにはなれなくて、誰にも理解してもらえなくて、一人になっていく。 「貴方も独りぼっちなのね。私達……お似合いかも」 「え?」 「あっ」 初対面の人をいきなり口説いてしまった。 「ち、違うわよ?誰が貴方のような不細工なんかと!…………」 「そ、そう。ですか」 またやってしまった。 「あ、いや、ち、えっと」 もう嫌だ。 こんな醜い自分を晒すくらいなら、誰とも会いたくない。誰にも愛されなくていい。 「私なんて……私なんて……」 「その……貴女は、綺麗です」 「……え?」 そう言うと、男の子は顔真っ赤にしながら私の手を握ってきた。 緊張しているのか、少し汗ばんだ手。 いつもの私なら、気持ち悪いとでも言って突き放しているところなのに……彼の緊張が私にもうつってしまったのか。心臓がずっとドクドクしていて、声どころか呼吸するので精一杯だ。 「僕。貴女が赤薔薇の女王って呼ばれているの知っています。でも、僕はそのあだ名素敵だと思います!」 「す、素敵って……そ、そんな嘘なんてつかなくていいです!!だって……薔薇なんてただ見た目が美しいだけで、触れば棘だらけ。私みたいに相手を傷つけてしまう。ほら?それのどこが素敵なんですか」 「確かに薔薇には棘があります。でもそんなのは、触る方が気を付ければいいだけです!それに……薔薇は色んな愛の形になる。美しい花なんです!」 「愛の形……?」 「花言葉です。一本なら『一目ぼれ』や『あなたしかいない』三本なら『愛しています』七本なら『密かな愛』と……色んな愛の言葉になるんです」 その人は近くに咲いていた薔薇の花にそっと触れると、優しく微笑んだ。 きっと彼は、花を愛しているのだろう。 私と同じで。 「って!!す、すみません!!男が花を語っても気持ち悪いだけでしたよね。申し訳ありません!!」 「私も花好きなんです。特に赤い薔薇が……」 「……あ、ははっ!僕と同じですね!確かに僕達はお似合いかもしれません」 ずっと俯いていた彼が、私の方見て笑った時。胸がキュッと締め付けられるように苦しくなった。 もっと彼の笑顔を見たい。もっと彼を知りたい。 高鳴る胸の鼓動を必死に抑え付けながら、私は彼に恋をしたのだと実感した。 「こ、この私と同じ花が好きだなんて、な、生意気ですわ!」 「あはは。すみません」 あの日から十年間。 私はずっとコルク王子に恋心を抱いていた。 あの時コルク王子は、単に赤い薔薇が好きだったから、嫌味でつけられた私のあだ名を素敵だと言ってくれたのだろう。 だから私に対する気持ちなんて何もない。多分興味すらない。 それでも「素敵だ」と言われたことが「僕も好き」だと言ってくれたことが、凄く嬉しくて舞い上がった。 もっと話したい。もっと知りたい。もっと見つめていたい。もっと一緒に居たい。ずっとそう思っていたけど……。 こんな私じゃ、コルク王子は振り向いてくれない。 「もう……諦めるしかない……のよね」 再び訪れた舞踏会で、私は手を引かれ。エスコートされる。 コルク王子ではなく……私をここに誘ったアスカ王子に。
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