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10年後。
山中へ足を踏み入れた20歳の青年は、ふと足元に違和感を感じ、土を掘り起こした。そこで、小さなタイムカプセルを見つけた。
中にはボロボロの手紙と、布に包まれた宝石が入っている。これはきっと、瑠璃と呼ばれるラピスラズリだ。
深く深い、真っ青な世界の深淵に吸い込まれそうなラピスラズリ。背筋がぞくりとする美しさだ。
まさか…母親が10年前に埋めたタイムカプセルを見つけるだなんて。青年の口元は微かに歪み、弧を描いた。
ここは、戦争で荒廃して終焉が迫る、腐った世界。
生き延びる為にはどんなことでも厭わない…そう考えていなければ、必ず死ぬ世界。
いつも穏やかで、心優しい。青年の母親は、周囲からはそう思われていた。実際、この手紙もそう見える。
だが違う。酒癖がとてつもなく悪くて、残り僅かの金をすべて酒につぎ込む最低な母親。当時、弱冠10歳だった青年はそれに振り回されてきた。
この手紙はそんな母親の、息子に対する最期の情けだろうか。
「こんなもん、要らねぇよ」
青年は手紙をびりびりに破り捨てると、その場から踵を返した。
母親からの気持ちはさておいて、なんて綺麗な宝石だろう。青年はほくそ笑んだ。売ればどれだけの金になるだろう。この世界を生き延びる為の武器や防護服が、どれだけ買えるだろうか。
最期の母親の気持ちがどんなものだったのかはさておき、この10年の間に青年の心は乱れ歪み、どす黒く濁っていた。この世界を生き抜く為に。
それでもラピスラズリは最高に綺麗だ。青いブラックホールのような魅惑を秘めて、淡々と輝き続けている。幾多の青へと光を変えて、きらめきは終わらない。
青年は山中を後にした。辺りは相変わらず腐っている。だが、青年が見た世界は、10年前とは少し違った。
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