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私とあの人は名コンビ。
これまでもたくさんの仕事を一緒にこなし、その全てを大方成功に導いてきた。
でも…
私の選択のせいなのか、もうあの人には会えない。
私はこの先、一人でやっていくしかないが、それもまあ自業自得だ。
世間は私が独立したのだ、と良いように言ってくれているが…
まあ、それはそうかもしれないが…
あの人に最初に出会ったのは、業界内のつまらないパーティ。
やたらと声を掛けてくる、大手広告代理店であるウチにいるイケメン高収入の男子社員の中に、あの人はいた。
彼らとは対照的に、高卒で地味で引っ込み思案。
まあまあ可愛い顔はしているが、内向的でほとんど引きこもりタイプ。
何でそんな奴が派手なばかりの業界の見栄張りパーティなんかに居たのかというと、ウチの代理店の男たちに給仕係が足りないからと、バイトを頼まれたかららしい。
当然、給仕として一歩引いたところに立って、酒も飲まず、代わりに料理を運んだりお酒をついだりと、ひたすら給仕としての地味な作業に徹していただけだった。
私の周りには妙に華やかな男たちばかり。
そんな中であの人は、全く印象にも残らない存在に過ぎなかった。
でも後日、ウチの会社のCM企画部チーフである私が手がける、CMプロモーションの仕事をしている時に、補助要員としてあの人がやって来て、不意に再会した。
いや、やって来たと言うより、元々頼んでいた補助要員が他の仕事で忙しいらしく、代わりに暇だったあの人が差し向けられただけのことだった。
いきなり話を振られて、私のところに来させられたらしく、突然のことに泡を食ったように、あの人はいかにも乗り気じゃないような顔をしていた。
まあ仕方がない。
とは思ったが、補助要員とは言え、働いてもらう以上、ちゃんとやる気を出して頑張ってもらなきゃしょうがない。
私も業界では、"Sugar Free(無糖)"の異名で呼ばれる、甘さゼロの厳しい美人社員で通っていたので、あの人にも、やる気を出して仕事するよう懇々と伝えて、それから、これから行うCMプロモーション企画について、あの人に詳しくレクチャーした。
最初はいきなり振られた代役故に、よくわからないという顔をしていたが、レクチャーが終わる頃、あの人は何かを掴んだような顔していた。
「説明は以上だけど、何か質問ある?」
私がそう聞くと、あの人はそこから、矢のように大量の質問を私にぶつけてきた。
一体そんな細かい事までどうして気になるのか?というところまで、私を質問攻めにしてきた。
終いには、私の方がちょっと音を上げて、
「まだ質問があるの?」
などと弱音を吐いてしまった。
いつもなら、レクチャーしても、ろくに質問もしてこない助手や部下に、
「あんたら、やる気あるの?本気でこのプロモーションについて考えてる?」
って怒ってるのは私の方なのに。
「僕は代役で来ただけだけど、あの、一応、このプロモーションを成功させたいんですよね?」
「もちろんよ」
「じゃあ詰めれるところは詰めとかないと、まずくないですかね?あなたとは一緒に頑張れそうな気がするんですけど。アハハ」
あの人はそう言って頭を掻きながら、無邪気に笑った。
その無邪気な笑顔を見ていて、あの人は単に真面目に仕事をやろうとしているだけで、別に変な質問をして、私を撹乱しているわけではないことがよくわかった。
だってあの人が質問してくることは、どれもこれも、このCMプロモーション企画の綻びのような点を正確に指摘していて、私はずっと目から鱗が落ちっぱなしの、発見の連続だったからだ。
"こいつ、デキるな"
私は一瞬でそう思い直し、
「わかった!疑問なところがあったらどんどん質問してきて!」
と言った。
それからも1時間近く、あの人はそのCMプロモーションの問題点となるべく綻びを、正確に幾つも指摘し、ちょうど1時間後には、ほぼ完璧と言えるだけのプロモーション企画が出来上がっていた。
当然、そのCMプロモーションはすぐにプレゼンを通過し、CM化された時には実際に話題にもなり、最大の広告効果を生み出した。
クライアントからも絶賛に近いお褒めの言葉を頂いた。
しかしそれは私だけの力で出来たことでは全くなかった。
なんだか、私だけが手柄を独り占めしてるみたいで、クライアントからの絶賛の言葉を聞くたびに、あの人に悪い気がした。
あの人は代理でこのプロジェクトに参加しただけなので、スタッフの中でもかなり小さな扱いとしてしか記録されていない。
そしてあの人は、ただの代役に過ぎないから、もう私のプロジェクトに関わることは無いのだ…。
と、気がついたら、私は翌日、早速あの人を呼び出し、私の部下になってくれるよう頼んだ。
本当なら人事を決めるのは私の上司だから、上司に相談してからする話だが、なんだかそんなもの全部すっ飛ばして、私は、"この人が必要だ"と思ったのだ。
あの人の方は、良いも悪いもなく「上の方がそうおっしゃるなら」という言い方で承諾してくれたが、それから上司を説得するのは少し骨が折れた。
何しろ、あの人は学歴も実績もなく、ほとんど末端の社員と言っていい人間だった。
そんな人をいきなり、この会社の花形部署のポストに抜擢するわけだから。
しかし私は無理にでも、強硬に、上司を説得した。
それでなんとか、あの人を、私の部下にすることが出来た。
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