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真由は、暫くの間その場に立ち尽くしていた。気付けば手には老婆に貰った黒い傘。不思議と、ずしりと重い。傘の柄には紐で何かが括り付けてあるようで、傘の内部に隠れているそれが重さの原因であるように思えた。
紐を引くと、やはり重い。真由はゆっくりとそれを引き上げた。手の平大の、ピンク色のお財布だった。エナメル質の表面に、殆ど消えてしまっているマジックの文字を見つけて、真由は必死に目を凝らした。
そこには拙い子供の文字でこう書かれていた。
いままでありがとう まゆ
真由の手から力が抜けた。真由の手を放れた傘が倒れたその衝撃で、財布が地面に叩き付けられると、耳をつんざく高音と共に数えきれない程の百円玉を吐き出した。
転がり、地面をのた打ち回る百円玉を真由は睨みつけていた。最後の一枚が動きを止めるのを見届けると、未だ止まぬ雨の下に身を置いた。そうして真由は大声を上げてから、暗闇のうねりの中へと駆け出した。
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