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 梅雨の長雨に降参したのか、ヤマガラの晴れ乞いはもうどこにも響いていない。バス停と向こうの山との間に降りしきる無数の雨粒だけが、唯一生を与えられたもののようにうごめいていた。  雨に紛れた老婆が自分の顔を覗き込んでいるのを見つけた真由は、自分が涙を流していることに初めて気が付いて両手の甲で頬を拭った。そうしてそのまま握った両手で自分の腿を叩いた。  そんな真由の様子が妙に子供染みていたのか、老婆は硬くなっていた表情を一気に緩めて、 「悪い悪い、お嬢さんを怖がらせてしまったね」  と、腿を叩く真由の拳に手を添えてカラカラと笑った。 「お婆さん……?」  と、真由は純粋な老婆への心配と、話の中のおばさんが豹変してしまった悲しみと、そして安堵を交えた湿った声を絞り出した。上目遣いの真由に老婆が言った。 「結論から言うとな、おばさんの雨のおまじないは何の意味も持たなかったんだよ」  鼻をすする真由に老婆が続けた。 「足が少し良くなって歩けるようになったおばさんは、母親と女の子の住んでいたアパートを訪れた。そこには一人で元気に暮らしている母親がいた。女の子には会えなかったけれど、女の子はとうに成人していたから家を出ていても当然よね」  うんうん、と小さく二度頷くのが真由には精一杯の返答だった。老婆は変わらず、目尻に皺を寄せながら真由にこう語り聞かせた。  帰ろうとしたおばさんを見つけた母親は、おばさんだとは認識できなかった。十数年の憎しみが、おばさんの髪を白く染め上げて、身体の肉も削ぎ落としてしまっていたからだ。おばさんはその状況を利用して、また同じアパートに住んで母親の様子を見ることにした。そして母親の部屋には、様々な男たちが昼夜を問わず出入りしているのだった。 「色恋なのか、金銭が絡んでいるのかは分からないけどね」  老婆の色恋という言葉を聞いて、真由は何も言えずに顔を赤くした。それは少女の精一杯の反抗のようで、老婆には自然と笑みが零れた。
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