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「不思議なこともあるもんだ」  老婆がゆっくりと口を開いたかと思うと、もう一度、 「本当に、不思議なこともあるもんだ」  と言って、真由に微笑みかけた。優しい心持ちで真由が言った。 「不思議なことって、なあに」 「不思議な話を、こんな不思議な時に思い出したっていう不思議さだよ」 「不思議が一杯ね」  真由に笑顔が零れた。真由の笑顔につられるように、老婆も一つ微笑んでから言った。 「不思議な話、聞いてくれるかい」 「うん」 「長くなるけど、構わないかい」 「勿論」  真由はそう言って、子供のような屈託のない笑顔を老婆に向けた。不思議、という言葉に子供心をくすぐられたに違いなかった。 「それじゃ始めるわね。題名は、そうね、『雨のおまじない』。ある若い母親が小さな女の子の手を引いて田舎町に引っ越してきたの。でもいくら田舎だからといって、生きていくにはお金がかかるもの。養育費なんてものはあったものじゃない。貯蓄を切り崩しながら、貧乏でも親子二人は一生懸命生きていた」  静かに頷きを続ける真由に老婆は続けた。 「母親が働いている間、女の子は一人で静かに遊んでいるの。アパートの外でおままごとをしたり、虫を捕まえたり。考えられないわよね、小さな子を一人にするなんて。でも、母親の背に腹は代えられないという気持ちも理解できる。そんな女の子を不憫に思ったのか、ある日同じアパートに住むおばさんが女の子に声をかけるの、可愛いお財布ね、って。その女の子は首からピンクのお財布をかけていて、そのおばさんに自慢気に見せてくれたの。お財布をひっくり返すと、家の鍵と、何匹ものダンゴムシが入っていて、おばさんは驚きのまま声を上げてしまったんだって」 「ダンゴムシが入っていたら、きっと私も叫んでしまうわ」  真由が笑いながら相槌を入れた。老婆は、そうよね、と頷いてから続けた。
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