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「ある日、おばさんが母親にこう申し出たの、働いている間だけでも子供を見ていましょうか。母親は本当に感謝して、子供をおばさんに預けるようになった。そのおばさんも、とうの昔に子供が出て行ってしまっていたから、小さな女の子を見ているのはとても幸せだったのね。女の子もすぐにおばさんに懐くようになった。ある雨の日、女の子がおばさんにこう言うの、雨の日は外で遊べないからつまらない、って。おばさんは少し困り顔、家の中で遊ぶのも楽しいよって言うんだけど、女の子は全然聞く耳を持たなくて、とうとう泣いてしまうの。でも我が儘だって自分でも分かっているのね、自分の腿をグーにした手で叩くんだけど、その姿がとても意地らしくって。だからおばさんは女の子の手を握ってこう慰めるの、おばさんがそのお財布におまじないをかけてあげる。雨の日に、家に帰って、一人でお財布を開けるといいことがあるよ、って。翌日、女の子が満面の笑みでおばさんにこう報告するの、百円玉が入っていたのよ! それからというもの、雨の日には必ずお財布には百円玉が入っていて、女の子は雨の日が待ち遠しくなった」 「それってもしかしてそのおばさんが……」  真由が怪訝な顔で老婆を覗き込む。 「その通りよ。ただ雨の日に、おばさんがそっとお財布に百円玉を入れていたの。良くある話よね」  と、老婆はカラカラと笑った。 「でも、とてもいい話ね」  真由の太陽のような笑顔が陰気臭い老婆の顔を照らした。日が傾き始め、灰色の空は一層色を濃くしていた。雨はまだ当分は止むことはないだろう。
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