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季節は秋に差し掛かり、戸田の裁判が始まった。 一番の論点は、彼の精神鑑定にあるようだが、彼は、この2ヶ月で罪を認め、自ら「判断能力は十分にあった」と語った。 これから陪審員と裁判官がどのような決断を下すのかはわからなかったが、その結果を松が岬署の一員として、一緒に働いた捜査一課の仲間として、琴子は見届けるつもりだ。 傍聴した裁判所から、真っ直ぐ署に戻る気にはなれず、琴子は足を延ばして国立公園に来ていた。 前林が爆破させた久傍桜は、半分の大きさになってしまったが、きちんとその葉を紅葉させていた。 奥に進む。 城門を抜け少し行くと、季節外れの花吹雪が舞っていた。 山桜と豆桜を交配させた雑種は、冬にも花をつけることで広く知られている。これを別名、冬桜と呼ぶらしい。 紅葉の時期と被るその満開の季節は、この国立公園も、全国からの観光客で溢れかえっていた。 ひらひらと散る花びらに、手を伸ばす。 琴子の小さな手の上にのったそれを、そっと眺めていると、 「ーーー冬桜の花言葉を知ってるか」 低い声が後ろから響いてきた。
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