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その日はゆっくりと眠り、昼前に起きてからすぐ準備に取り掛かった。
とりあえず、近所にあるスーパーに行ってニンニクを買ってくる。そして、百均で手鏡と、玩具の十字架と短剣を買った。さすがに杭は買わなかった。というか、そんなんであいつの心臓貫いたら、殺人事件になってしまう。考えただけで馬鹿げていた。
自宅に戻り、自室に直行すると買ってきたものを一度、机の上に並べてみる。俺は唇を力強く結んだ。
よし、準備はできた。後は、あいつを待つだけだ。今日も来ると言っていたな。時間を聞いとけばよかったと後悔したが、仕方ない。俺は、前と同じように夜の十時頃から待つことにした。
夜の十一時過ぎにあいつは現れた。昨日よりもだいぶ早かった。スーパーの袋に買ってきたものを全部入れて、俺は一階に下りた。この時間だ、リビングは当たり前のように電気が点いていて、テレビの音も聞こえた。俺は、そっと、裏口で靴を履き、ドアノブを掴んだ。――すると、後ろから音がした。リビングのドアが開く音だった。まずいと思い、反射的に背後にビニール袋を隠し、振り返ると、そこには母さんが立っていた。
「え、こんな時間にどこへ行くの!?」
案の定、驚いたように目を見開く。
「あ、えっと……」
母さんが怪訝そうに眉を潜めると、もう一度訊いてきた。
「なに? もしかして遊びにでも行くの? 駄目よ! 夏休みだからって羽目を外そうとしてるんでしょうけど、こんな時間に出かけたら補導されるわよ? 絶対に駄目!」
「いや、そんなんじゃないよ。宿題がうまくはかどらなくて、気分転換に星合橋のとこに涼みにいこうと思ったんだ。あそこ、風通しいいしさ。あはは」
咄嗟にそんな嘘をついてしまった。
「あ、そういうこと? ちゃんと宿題してるんだ」
母さんは俺が宿題をしていることに驚き、手のひらを口元にあてがっていた。
「なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろ?」
「ごめんごめん、お母さんてっきりあなたが不良にでもなるんじゃないかって心配だったのよ」
「なんだよそれ、そんなわけねえだろ」
「そうよね。こう見えても灯夜って根は真面目だしね」
そう言って、肩を震わせ笑っていた。そんな母さんを見て俺はむくれると、ぞんざいにこう言った。
「もう、時間ないし行くから!」
「時間ないって?」
「あ、いや。もういいだろ! 涼みに行ってくる!」
俺は、裏口を開けて急いであいつのもとへ向かった。結構、母さんとの会話で時間を食ってしまった。
まだ居ればいいけどな……。
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