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蝉時雨が降っている。俺は腕で額の汗を拭った。今年の夏も暑い。中学三年生になった俺は変わらず野球を続けていた。周りを見渡してみると、変わらない校庭。変わらない校舎。変わらない山が見える。一年じゃ、街並みも、人も、大して変わらない。
俺は、ヘルメットを被りバッターボックスに入った。
しかし、一つだけ変わったこともある。それは、お前がいなくなったことだ。
俺は、あのとても暑かった中学二年生の夏、お前と出会った。忘れることのできない友達だ。お前は他のやつらとは違って、自分を受け入れ、リアルな痛みを知っていた。でも、特別扱いされるのを嫌っていたお前がこれを聞いたら腹を立てるかもしれない。
校庭に砂ぼこりが舞う。俺は、対峙するようにピッチャーを真っ直ぐ見据えた。
いや、お前のことだからきっと……。
眉を潜め、俺は表情を引き締めた。
どちらにせよ、もういない。お前はいないんだ。変わってしまうことは、悲しいことの方が多い。
でも……。
ピッチャーが振りかぶる。
俺は、バットを持つ指に力を籠めた。
カキーン!
全身に伝わる振動。ボールは澄んだ夏の空へと飛んで行った。
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