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「俺と相馬さんが付き合ってる噂知ってる?」
「はぁ?」
お前頭おかしくなったのかという表情で友人の加藤がこちらをみる。
「まぁそれが普通の反応だよな」
「面白いリアクション出来なくてごめんよ」
「別にそういうのを期待してたわけじゃないから」
今の言い方だとより追い込んでるみたいだけどまぁいいか。
放課後の図書室はいつだって空いている。ほとんどの生徒は本に興味がないし熱心な読書家は図書室では満足できない。
僕がここにいるのも今週中は図書委員の当番で受付をやらないといけないからだし、そもそも図書委員だって風邪で休んだ日にいつの間にか決められていただけで本とか全然詳しくない。
「相馬さんの彼氏の噂って聞いたことないな」
「まぁ俺らが知らないだけで女子の間では有名とかあるかもだけどな」
加藤は比較的クラスのどのクループとも話す存在だが、女子とだけは縁遠い。まぁ男子高校生でクラスの女子全員と仲がいいというのは天然記念物のような珍しさだろう。
「あ、でも一年の時に彼氏というか自称彼氏が出たことはあったな」
「なにそれ」
「5組に小絵山っているの知ってる?」
「あー同じ図書委員かも、確か。名前は見たことある」
「そいつがさ、1年のときに自分が相馬さんの彼氏だって言い出してさ。相馬さん男子とほとんど喋らんからバレないとでも思ったのか知らんけど、その噂が女子にまで回って最終的に相馬さん本人に確認したら嘘だって分かって一時期嫌われてた」
「へぇ、全然知らんかった」
「まぁ相馬さんも小絵山も有名人じゃないしな。俺は同じクラスだから知ってたけど他のクラスの人は知らないんじゃね」
確かに知らない人間同士の恋人疑惑ほどどうでもいい話もないし、小絵山がうそつきだと言われてもそもそも顔も分からない人間を嫌うのは難しい。
「うちのクラスに1年の時5組だった人っている?」
「俺と相馬さんだけだったはず。選択科目の関係で」
「ということはうちのクラスではほとんど誰も知らないってことか」
「そうじゃね? 山本くんの彼女とかは知ってるかもだけど」
「なんで?」
「だって相馬さんと仲良いじゃん。あと、中村さんも」
「言われてみれば確かにその三人はよく一緒にいるかも」
それを当然のことのように話す加藤もやっぱり相馬さんのことを意識して見ているのだろう。否定したとはいえ噂が山本くん以外にも流れ始めたら僕は果たしてどうなるのだろうか。
「じゃあ俺そろそろ部活行くわ。基礎練終わっただろうし」
そういってカバンとラケットケースを背負う加藤。彼はあと30分もすれば図書室が閉館で、それまで残っていると図書館司書に閉館作業を手伝わされることをちゃんと知っている。
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