彼女の噂、彼氏の噂

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放課後の図書室はあいも変わらず空いている。 ここにはあふれるほどの知識や物語があるというのにそのほとんどが誰にも触れられることなく埃をかぶっているというのだからなんと勿体ない。 まぁかくいう僕もろくに読んじゃいないんだけど。 ちなみに加藤は昨日のサボりがバレて今日は二日分基礎練をやらされているそうだ。 がらがらと音を立てながらドアが開く。そちらに目をやると相馬さんが辺りを伺いながら入ってくる。そして僕と目が合うと一直線にこちらにやって来た。 「ねぇ南くん。いまちょっと時間ある?」 「この通り暇だから大丈夫」 両手を広げて誰もいない図書室を紹介する。 「実は今日ね、こんな手紙が下駄箱に入ってて」 そういって相馬さんがカバンの中から一枚のルーズリーフの切れ端を取り出す。そこには 『南が相馬さんと付き合っていると自分で言いふらしているらしい』 とだけ書かれていた。 「これは……」 裏を見たり透かしたりと色々確認するがなにもない。たった一言の忠告だ。 「南くんさ、私と付き合ってるか誰かに聞かれたりしなかった?」 「聞かれたよ。山本くんに」 「ごめんなさい。それ、私がついた嘘なの」 頭を下げる相馬さん。こちらが座っているのに立って謝罪させるというのはなんだか部下と上司みたいで居心地が悪い。こちらも立ち上がって応対する。 「気にしなくていいよ。こっちも嘘の手紙を書いたしお互い様」 「え?」 「だからその手紙。僕が書いたんだよ」 「うそ…」 「山本くんに付き合ってるか聞かれたのは本当だけどね。でもその噂はちゃんと広まってないし、俺が言いふらしてるなんて噂はそもそも存在しないよ」 相馬さんが安堵とちょっぴり怒りが混じったような微妙な表情になる。そういえば笑っている顔以外あまり見たことないかもしれない。とりあえず受付の余っているパイプ椅子を勧めて座らせる。 「いやーでも相馬さんが来てくれてこっちもほっとしたよ。今日一日中ずっと気が気じゃなかったから」 「それはこっちもだよ」 今度はハッキリと不満げな表情になる。マズイ、嫌われたくはない。 「ごめんごめん。でもこっちから真相を確認するにはそれくらいしか方法が無かったから」 「直接聞きにくればいいのに」 それは思春期男子としてはなかなか難しい選択だ。 「まぁでもやっぱり噂の発信源は相馬さんだったんだね」 「うん。でもなんで分かったの?」 「僕と相馬さんがいつも今みたいに話してるなら噂にもなるけど、そうじゃなきゃそんな噂誰も信じないでしょ」 「それはまぁ。あんまり話したことないし」 「もし信じるとしたら当事者本人の口から直接聞かされた場合だけ。そして仮に僕が言ったところでそれをそのまま信じる人は少ない。でも相馬さんが言ったなら大抵の人は信じる。わざわざ僕と付き合ってるなんて嘘をつく理由がないってみんな思うだろうから」 「……そっか南くんが言い出した場合は『南くんが私と付き合っていると言いふらしている』になるってことか」 「そういうこと。でもこうやって謝りに来てくれたように相馬さんは僕を貶める気はなかったんでしょ」 「今はそうでもないけどね」 相馬さんが少し呆れ顔で笑う。種明かしをするほど好感度が下がっているような気がしないでもない。 「なんにせよそういうわけで相馬さんが噂の発信源だって分かったということ。でも、いくらなんでも『相馬さん僕と付き合ってるって噂流してないよね』なんて直接聞けないからさ。それで第三者を装って手紙を書いたわけ」 「それにしてもなんであんな内容の手紙だったのさ」 「だって直接は無理だし第三者を装って『相馬さんは南と付き合ってるんですか?』って書いたところで相馬さんはそれを僕に伝えないでしょ」 「……そうだね。紙を見せて『南くんって私と付き合ってるの?』って聞くのどう考えてもおかしいし。返信する相手も分からないし」 「ね。だから、相馬さんがいい人だと信じてああいう内容の手紙にするしかなかったんだよ」 「でももし私が言いに来なかったり、そもそも噂がまるで違う人が作ったものだったらどうするつもりだったの」 「そしたらまぁしょうがないかなぁって。でも仮にあの手紙を読んでもたぶん相馬さんはデマを軽々しく広めたりはしないだろうなって。どちらにせよ僕に見せに来るだろうと」 「ふーん。でも私そんなにいい子でもないけどね」 少しはすっぱな言い方をする相馬さん。確かにこうやって話してみるとクラス内の隠れアイドルという印象と少し違うのを感じる。なんというかもっと生身で尖っている。 「でもなんでこんな嘘をついたの? 解決方法はこうやって思いついたけど理由とかは正直あんまり分かんないんだよね」 「どうせバレちゃったし全部話すよ」 そういって相馬さんが話し始める。
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