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「私ってほらかわいいじゃん?」
予想外の発言でどう反応すればいいのか迷う。
「自覚はあるんだねやっぱり」
「そりゃね。西野さんと比べられると地味だけどさ」
「あの人は振る舞いもアイドルっぽいしね」
あくまでも地味と答える辺り心の中では負けないと思っているのかもしれない。というか素の相馬さんはこんな感じなのか。たぶん男子全員、女子でもその多くが知らない顔なんじゃないだろうか。
「そうなると友達の彼氏に好意を持たれたりすることもあるわけで」
「あぁ、山本くん」
「まぁ実際に私のことを好きかどうかは知らないけどね。でも咲ちゃんがそう思いこんじゃったら関係ないじゃんね」
「咲ちゃん?」
「山本くんの彼女」
「あぁ」
誰かの彼女ってそれでインプットされて名前を覚えられないのは僕だけだろうか。
「それとさ、咲ちゃんは一緒にいて楽しいし面白いんだけど結構簡単に誰かの秘密とか教えてくれるんだよね。だから私の秘密も他の人に教えてるんじゃないかなって思ってさ」
「あ、それで僕と付き合ってるなんて嘘をついたのか。噂の内容ではなく流れるかどうかが大事だったわけだ」
「そう。中村さんにも教えてない秘密だから誰にも言っちゃだめだよってね。でもまぁやっぱり彼氏に喋っちゃったよね。しかも一週間で」
「速いなぁ」
「別に口が軽いってだけで縁を切ったりはしないけど、そういう人と陰口を言い合ったりはちょっと出来ないよね。私性格悪いし」
「まぁ陰口くらい誰だって言うよ」
「うん。でもそれは本人に伝わらないから言えるんであって、伝わる可能性があるのに平気で言えるほどではないんだ。性格悪い自覚はあるけど自分から進んで性格悪いことを広めたいわけじゃないし」
「そうだね」
本人に伝わってしまったらそれはもう陰口ではない。自分の中に暗いものがあったとき、無理やり抑え込むよりも上手く付き合うほうがずっと現実的なやり方だと思う。
「それで、たぶん咲ちゃん経由で彼氏に伝わって、彼氏から南くんに伝わって、南くんはきっと正直に答えるから彼氏から咲ちゃんに嘘だったことが伝わってそれで私のところへ戻ってくる。今朝一番に本当に南くんと付き合ってるのか問いただされたよ」
「嘘だってちゃんと言ったの?」
「テキトーにはぐらかした」
「なんで!?」
「だってこの手紙受け取った後だったし」
そういってさっきの紙をひらひらさせる。
「あぁ、なるほど」
「これで嘘だって言ったら南くんが小絵山みたいになっちゃってそれはさすがにかわいそうだし」
「ちなみに小絵山くんは同じ手口で騙したわけじゃないよね」
「そこまで酷いことすると思ってるんだー」
「あ、そういうわけでは」
「ふふっ、まぁでもそっちは一切擁護しなかったし酷いことには変わりないかもね。勝手に誰かの彼氏にされてるとか普通にムカつくし」
だとしたらもし発信源が相馬さん以外の誰かだったら僕はあっさり嫌われていたかもしれない。危ないところだった。
「そういえばさ、一つだけまだ分からないことがあるんだけど」
「ん?」
「なんで付き合ってる疑惑が僕だったの? クラスメイトじゃないと自分のところに噂が返って来ないってのは分かるけど、別に僕じゃなくてもいいよね」
「それ、私の口から言うの?」
相馬さんが露骨に不機嫌な顔になる。
「ほかに誰が知ってるのさ」
「……もしかして本当に分かってないの?」
「さっぱり見当もつかない」
一体何か見落としがあっただろうか。僕の困惑顔を見て相馬さんがこらえきれず笑いだす。
「あはは、おっかしーなぁ。南くんって思ってた通り面白いねぇ」
「……なんか褒められてる?」
「そうだね、褒めてるかも。ねぇ連絡先教えてよ」
「え?」
「迷惑かけたお詫び。いや、噂の真相を見事見抜いた商品としてかな」
そういってスマホを取り出してあっという間に僕の連絡先を自分のスマホに転送する。
「それでさっき聞いた理由の方は……」
「それはまぁ仲良くなったらそのうち教えてあげるよ。じゃあね」
そういって図書室から駆けていく相馬さん。再び静かな図書室に一人取り残される。よく分からないけどどうやら問題は解決したし嫌われてもいないようだからまぁこれでいいか。
ふと思い立って小説の棚へと足を向ける。なんだか今の僕が読むべき本がそこにあるような気がした。ミステリ小説かそれとも……。
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