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連休に入り実家に帰ると、生垣のツツジは今が盛りだった。
荷物を持ったまま、思わず足が止まる。
数十年前ー確か小学生の頃だったかーひとつ年上の幼馴染みとよく蜜を啄んでいたことを思い出す。
日焼けした顔、茶色の目、その中にはひまわりのような虹彩が爛々と輝き、夏の日差しがよく似合う少年だった。
彼の全てが眩しかった。
しなやかでいて筋肉質な体つきも、私のような日蔭者の少年に優しかったところも、色々な遊びや悪戯を知っていたところも。
ああそうだ。
ツツジの蜜の吸い方を教えてくれたのも彼だった。粗野な彼が花を崩さぬようそっとガクから外す手つきと、花を咥えた唇がやけに蠱惑的で、胸が高鳴り戸惑ったのを覚えている。
成長するにつれ想いは膨らんで、中学生の頃に恋心が芽生えた。
さすがに、軽率に告白するような度胸も覚悟もなかったのだけれど。こんな田舎で同性同士が交際していると分かれば、中傷や揶揄が飛び交うのが目に見えていた。
幼い私は彼への想いをそっと胸に咲かせたまま、それが萎れるのを待つしかなかった。
四十を越えた今では懐かしい思い出の一つだが。
彼が都心の大学に進学すると、自然に付き合いは減っていき、携帯電話の電話帳に名前を残すのみだ。
ふと口寂しくなり、ツツジの花を毟って口に咥える。つ、と吸い込めば、純度の高い甘みが舌を刺しじんわりと染み込んでいった。青臭い香りがほんの少し立ち昇る。
初恋の味が、広がった。
終
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