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「マリア!? 大丈夫ですか!?」
手を差し伸べられ、顔を上げた先には傘をさした司祭がいた。
戸惑っていると、司祭は手を引っ張り泥だらけで倒れる私を立たせた。傘の中に入った私を見つめながらハンカチを差し出す司祭。私はそれを反射的に受け取ってしまう。
「どうしてここに?」
それはこっちの台詞だ。この人には聞きたいことがたくさんある。ずっと私のことを見ていたのは司祭だったのか。父の死について何か知っているのか。懺悔室にいたのはあなたなのか……それとも別の誰かなのか……そしていつから入れ替わっていたのか。
脳裏には浮かんでいるのに言葉に出来ない……。聞きたい事が多すぎる以前に、司祭への不信感と目に見えない怖さのせいで口を開けなかった。
「一つの提案ですが……マリア、修道女になりませんか?」
「え……」
「君は信仰心がある。マリアさえ誓願をすれば……」
「――そんなの私なんかが無理に決まってるじゃない!!」
遮った言葉と同時に司祭の手を振り払うと、足場の悪い道を走り出した。
勧誘!? 修道女?? 何それ……こんな穢れた私が全てを神に捧げられるはずないじゃない! 司祭は何か企んでいるの!?
激しく降る雨の音がうるさい。
目の前から吹き寄せる風に乗った雨粒が顔を殴ってくる。今の私はそれが責められているように感じた。
父も母も私のせいでいなくなったの? 友人夫婦は私のせいでいなくなったの?
答えの出ない疑問に頭が痛くなりその場にうずくまる。
「マリアッ!!」
腕を引っ張られたと思った刹那の出来事だった。
次の瞬間には雨の音で聞こえづらかったのか、悪路で横転している馬車が目前にあった。大雨で道幅も狭く、ぬかるんでいる。これが事故というモノなのね。
転倒した馬……御者は微かに動いていて、荷台には積み荷しかなさそう。こんな雨の日に馬車で出かけるなんて……どこへ行くところだったのだろう。
事故現場を分析してみる。
後は……私の隣に傘が転がっていた。
けど、この後どうしたらいいの?
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