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「自分を人形として売ってみたい子とか」
女性医師は言います。
「いいよ。条件があるけど、飲んでくれるなら」
私は条件を聞く前に「お願いします」と言っていました。
そして、「ギャランティはおいくら払えばよいでしょう」とやや失礼な言い方で訊きました。
20万円に収まる金額を提示してもらえるように、そのような訊き方をしました。
ここで女性医師は意外な返答をします。
「お金はいいよ」
私は驚きます。
そして、闇医者に対してステロタイプな印象を抱いていたのだなと気づきます。
・大金を巻き上げる
・反社会的であり、人間に対する憎悪のようなものを秘めている
など。
「あなたがどんな人か、試しただけだから。10分で10万円?ありえないでしょ。もともともらう気なんかなかったよ」
女性医師は涼し気な表情でコーヒーを飲みました。
光「本当に失礼を承知でお窺いしたいのですが、先生は何を目的とされているのですか?」
医「目的って?」
光「私ははじめ、先生がお金を目的としているか、人間を奇形に変えたいか、そういう変態性を持っているのか、そのように思っていたのです」
医「変な人としか会ってないの?」
光「どうなんでしょう」
医「私は自分でやれることと、やりたいことがある人の希望とが一致すれば、それを実行するだけよ」
女性医師がコーヒーを飲み終えたので、私は「すみませんが、もしよかったら場所を移動しませんか?」と持ち掛けました。
そして、私たちはカラオケボックスの個室に移動することにしました。
込み入った話をしづらかったのです。
というのも、静かで過疎っている喫茶店を選んだはずが、今日はとても人が多く、店の外にまで人がいる状態でした。
店に入りたくて順番を待っているようなのです。
この日は台風の前だったか後だったか失念しましたが、
空が変な色をしていました。
私たちは移動しながら、話を続けていました。
「どんな人が多いのですか?」
私は訊きます。
「いろいろいるよ。人形になりたくて、人形のケースに入って自分を売ってみたいから人形にそっくりにしてくれとかね」
女性医師は言いました。
このとき私は【人形】という言葉と、頭のなかにある何かを一致させました。
さっき喫茶店の内外にいたお客さんたちのことです。
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