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「ところで、先生、私に何かお願いがあって、それを聞いてくれたら取材の延長をするっておっしゃいましたね」
私は訊きました。
「そうそう。今日は人形を一体買ってほしいの」
そして、女性医師は私の返事を待つ前に、人形の紹介を始めました。
このお人形はどこ出身、どこ出身…。
私は驚きました。
名家、名門、お金持ちの家の出身なのです。
転落した家柄、没落した家柄、現在もお金持ちの家柄などです。
昔からの財閥系というのではなく、やはり成り上がり系のお金持ちの続柄(つづきがら)なのです。
私は、私を雇っているセレブたちを思い出します。
彼らの娘さんではない…だろうか…違う、大丈夫。
「どの子がいい?」
女性医師が訊きました。
分からないので、
「一番お安い子をお願いします」
と言いました。
女性医師が言います。
「そういう売り方はしないの」
「そうですか。では、先生のおすすめの子をお願いします」
私は言いました。
そして私に差し出された人形を購入することになりました。
お値段は人形の【一か月の生活費】でした。
「生活費と言っても、この子はあまり食べないし、モノも買わないから」
と女性医師は言いました。
「でも、どうして私が買うのでしょう」
私は訊きました。
「この子は明日、大きな手術をするの。それで、ダウンタイムがあるんだけど、そのあいだ家に帰れないでしょ。だから、あなたがこの子の一か月を買い取って、お部屋に置いておいてほしいの」
*********
そして、私はこの人形を購入しました。
そして、一室与えています。
この期間は、正直地獄絵図のようでした。
【死人焼きの村】の売春宿での生活で、女性のお世話係には慣れていたものの、やはり、自分の生活圏にいるということが、大きく違っていました。
血、血、血の日々です。
グロテスクになりすぎますので、具体的な描写は控えますが、
病んだ末に人形になった元・人間の”手入れ”がこれほどまでに大変だとは知りませんでした。
そして、一か月と言っていた人形は結局三か月いて、そしてある日消えていました。
私はほっとしたのと、困らせられたとはいえ、多少の喪失感を覚えたのも事実でした。
********
結局、私は買った人形との日々を記事にしました。
ひとまず、そのまま二週間の取材へ出ました。
そのあいだ、部屋は留守にしました。
帰宅すると、まず、玄関のドアに茶色のシミのようなものが付着していて、なんだろうと思いながら部屋に入ると人形たちがいました。
「まだいていいですか?」
あの人形が、別の人形たちを連れてきていたのです。
女性医師のあとをつけていた人形たちではないような気がします。
というか、どんどんとカスタマイズしているので、もはやどの人形がどの人形かわからなくなっていました。
「もう家には戻りたくないのです」
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