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無賃タクシーだよ
その後の20年間を、余りにも生々流転したもので、往時どこでもいつでも四面楚歌のような孤立状態にあった私に対し、殆ど彼のみが親しくしてくれていたのを、恩知らずにも失念していたのだった。なぜ親しくしてくれたのかは判らなかったが、とにかく万年孤独の中で彼の存在はありがたかった。
「ああ、山倉さんか。いやー、ちょっと思い出せなかったよ。ハハハ、失敬、失敬」
「いいよ、いいよ、そんなことは。それよりさ、今どこに行くの?仕事の帰り?家(うち)はよ。今どこに住んでんの?」片側二車線のうち一車線を完全に塞ぐ形になっていたので彼は他の車群を気にしつつ畳み掛けるように私に聞いて来た。現住所が隅田川沿いの南千住であり今そこに帰るために浅草駅に向かっていることを手短に伝える。
「ああ、そう。南千住。だったら乗りなよ、車に。送っててやるよ」そう云って彼は後部左側の自動ドアを開けた。えーっ?とか云って恐縮する私に「いいから、いいから。早く乗って。無賃タクシーだからさ、大丈夫だよ。ハハハ。とにかく道塞いじゃってるから早く乗ってよ」とばかり有無を云わさない。嫌も応もなく私は吾妻橋の車道側欄干を跨いで越え彼のタクシーへと乗り込んだ。
【突如現れた山倉タクシー、運転手はロバート・デニーロかミッドナイトか…】
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