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──星の声を知ってる?
暗闇の中、マリィが隣で重要な秘密を打ち明けるように言うので、キオは素直に知らない、と言った。キオの返事を聞き、マリィはそうよねそうよねと、身体をバタバタさせた。得意げな動きに合わせて、キオは身体から伸びた木の枝葉を伸ばし、降り続ける雨からマリィを護らねばならなかった。
キオの首の根元からは、慎ましやかな庭の木ほどの樹木が伸び、ザアザア降り続ける雨から、キオとマリィの身を守っていた。少女の頭上の葉だけは異様にくっつき密集し、隙間なき屋根となり。まっすぐ地上にやって来る雨粒から、ほとんど完璧に身を守っていた。木の人形であるキオには、少し湿気るくらいに濡れるのは心地よい。マリィは人だからそうもいかない。
「星の声って言っても星が本当にしゃべるんじゃないのよ。空一面に、お砂糖ツボをひっくり返したみたいに星々が散らばって瞬く夜。虫が鳴いて風が吹いて、キオの身体から伸びるかわいい素敵な木よりもっと、もーっと怖いくらい大きな樹の葉っぱがね、最初はサワサワ、矯風でザワザワ、ザーッて、そう、ちょうど今の雨が降ってる音みたいに騒がしくなって。フクロウが樹がうるさいなー言うみたいに森の中を飛ぶ。そういう一連の音を、私は星の声って呼んでるの」
キオ達の足元で揺れる、カーボの実のオレンジの灯りが、楽しそうなマリィの笑みを伝えてくれる。カーボの実の灯りで見るマリィの顔は、夕焼け空の真下で見るマリィの顔と似ていて、けれども光の光量の差で影のつき方もマリィ以外の周囲は良く見えないのは違っている。
「もっと小さな頃、パパとママに遠く森の中のお祭りに連れて行ってもらった時、そんな声を聞いたの。お祭りの喧騒から外れた場所に全然違う空気の世界が広がっていて──それに星の声、って名前をあげたのよ」
キオは自分の頭上の枝葉の隙間から、空を見上げた。空は雨で当たり前のような顔をして、星の一粒さえ見えない。
「今は聞こえない?」
「そうねえ、聞こえないわ。今は──雨の声ってところかしら」
遠くの木陰で、ケエルの声がゲコゲコ聞こえた。気のいい仲間達で集まっているのか、大合唱が止まらない。マリィはまたその口から面白い事を言うのだが、やかましいケエルの声さえも自然に遠く──マリィの跳ね回るような声だけが鮮明に聞こえる。
ケエルの中で、マリィは一番前に出て飛んで跳ねて喋っているみたいだ。今はお行儀よく座っているのに。きっとケエルのお姫様なんだ。お姫様だから、ケエルのように飛んで跳ねてもいらなくて、話すだけで空気が弾む。
星の声は聞こえない。雨の声も遠い。君の声だけが近くで聞こえる。
キオの首元から生えた木から、リーゴの真っ赤な実が季節をかっ飛ばして実り、ころころころん。と落っこちて来た。
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