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「…………」
天亜蘭はめまいに似た感覚を味わった。
(あの、なにをやってもダメな蟹山永盛が……?)
落ちぶれたいまの自分の境遇に耐えられないほどの差を感じた。
殴られたような敗北感が胃を委縮させ、急に吐き気がしてきた。
「あれ、どうしました? クルマに酔いましたか? 顔色が青いですよ」
武之はハザードを出して、クルマを停止させる。
天亜蘭はシートベルトを外すのももどかしく、ドアを開けて歩道にしゃがみこんだ。
ぜいぜいと呼吸が荒い。気持ち悪いのはストレスのせいか、それとも──。
(まさか──宇松の子供を妊娠している?)
その可能性に気づいて天亜蘭は恐怖に襲われる。脂汗が額ににじんだ。どうか気のせいであることを必死で願った。
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