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「蟹山くん、おたのみ申す」
アリサ父も励ましてくれた。
「はい、がんばります」
みんなが期待してくれている。その期待に応えたい。
ここまで来れたのも、大勢の人の協力があってのことだ。半年ほど前、会社を退職してなにもかも失っていたときを思い返すと、いまここに立っていることが奇跡のようだ。人生というのは、こんなにも劇的に変わるものなのか……。
あのとき、アリサと出会わなければ、いまでもなんの取り柄もない男で、夢のない消化試合のような人生を送っていただろう。
まさしく、人との出会いが人生を変えるというのを実感する。
いつか、音楽活動が本格的になってきたなら、永盛は両親にもライブコンサートに来てもらおう、と思う。
控室で出番まで待つ間、気分を落ち着けようとするがうまくいかない。何度も深呼吸している。ステージの上で人前でピアノを弾くのは高校の文化祭以来だ。そのときはいまよりずっと楽な気持ちで臨めたが、今回はそうもいかない。
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