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「時間ですので、お願いします」
スタッフが呼びにきてくれた。
「蟹山さん、リラックスですよ」
アリサがそう言ってくれる。歌手としてやっていくことを目指していたアリサはこの瞬間を楽しんでいるのがわかった。
そうだな、と思う。注目されるのは主役のアリサであって、永盛ではない。
少し気が楽になった。
「よし、行こう!」
不安を吹き飛ばすかのように声を張り上げた。
ステージの袖に上がると、観客席のざわめきが耳に入る。社長もLAMMINもアリサ両親も着席して開演を待っている。
「蟹山さん」
舞台袖で、アリサが手の甲を差し出している。
永盛はうなずいて、そこへ手を重ねた。
「やり切るぞ──ゴー!」
右手を頭上に振り上げた。
客席の照明が落とされ、ライトの下に明るく浮かび上がったステージ。
そこへ向かって、二人は歩いていった。
〈完〉
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