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母が死んだ。 それは、二月の雪の降る寒い日曜日のことで、幸い私も父も、病室でその穏やかな最期を看取ることができた。 幼い頃から身体が弱かったという母は、田舎街の小さな病院の医師だった父と結婚し、私を産んだ。 まさに、命を懸ける出産で、当時の話を聞くたび、私は自分の命の重みというものを、深く感じたものだった。 入退院を繰り返していた母だったが、私は親子三人で野原を駆け回って遊んだ記憶もあるし、学校の行事を欠かさず見に来てくれていた両親の姿も目に焼き付いている。 二人は、大切に、丁寧に、大きな愛情を持って一人娘である私を育ててくれた。 母の葬式も無事に終わり、父は、最愛の妻を失った哀しみを、母が残した庭の花を育てることで少しずつ癒やしていくと決めたらしい。 遺品整理のため実家に帰った私に、嬉しそうに、芽吹き始めた花の蕾を見せてくれた。 「お父さん、体の方は平気?」 「ああ。これが良い運動になってるよ」 毎日の水やりは、足腰の弱ってきた父にとっては大変な作業かもしれないが、小さな花を嬉しそうに見つめるその優しい表情は、母を見る父の顔を思い出させた。 気持ちを整理できていないのは、きっと私の方なのだ。
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