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「……っ…」 「円!」 目に突き刺さる、蛍光灯の光。 白い天井。 点滴。 ぼんやりとした意識の中で、私はここが病院であることを何とか認識した。 私…どうしたんだっけ…? あぁ…そうだ。 買い物の帰りに、あの桜並木で… 私の赤ちゃん…二人は、どうなったんだろう。 もう、お腹の中にはいない。 それだけが、はっきりとわかる。 疲れきった父の顔が、私を見ている。 隈の浮かぶ夫の顔が、私を見ている。 ねぇ、私の赤ちゃんは、どこにいるの? 「…大丈夫。大丈夫だよ、円」 夫が、私の手を握り、優しく微笑む。 「早産だったからね、凄く小さいけど…二人とも元気だよ。…頑張ったね、円」 …良かった。 本当に、良かった。 夫の言葉を聞いて、体中の力が抜けた。 あぁ…私は、お母さんになったんだ。 ちゃんと、なれたんだ…母親に。 気がつけば私は、大きな安心感に包まれ、そのまま眠ってしまっていた。 夢の中には、優しい夫の笑顔と、顔のよく似た幼い二人の子どもたちの笑顔があった。 それは、まだ見ぬ未来であり、きっと、近い未来の現実でもある。 私は今、きっと世界で一番幸せだ。 疑いもなく、そう思えた。
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