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「質問の、途中だったね」 ようやく泣きやんだ私に、彼はそっと話しかけた。 そうだ。 彼には、聞かなければならないことがたくさんある。 この場所のこと、彼のこと、そして、母のことを。 「ここは、どこなの…?」 「…ここがどこで、何なのかは、僕にもわからない。 円が普段生きてる世界と違うことは確かだけど、危険なところじゃないよ。 電話を切れば、いつでも元の世界に戻れる。 そのまま、一生来ないことだって出来る」 それでも、母は何度も電話をかけ、恐らくは何度もこの世界に来て、そして彼に会っていた。 そうする理由があった。 私は、それを突き止めなければならない。 母の秘密を、知りたい。 なぜか、私はそんな使命感のようなものに駆られていた。 何か、不思議な力によって導かれているような、そんな気がしていたのだ。 「…あなたは、誰なの?どうして…顔が見えないの?」 そう言うと、彼は少し驚いた様子を見せた。 「…僕のことは、教えられない。お母さんとの約束なんだ」 「…あなたは、人間なの?」 「…そうとも言えないし、そうじゃないとも言えない。 ただ僕は、円のこと…円の家族のことを、本当に大切に思ってる。 勝手にだけど…一緒に生きてきたつもりでいるんだ。 信じられないことばかりだと思うけど、今日は…お母さんの話をしようよ。 円が知っていることは、僕も知っているから」 その言葉通り、彼は私が話す家族の思い出を、全てその場で見てきたように知っていた。 両親と三人で行った旅行のことも、幼い頃にした小さなイタズラのことも、反抗期に繰り返した両親との言い争いも、母と最後に交した会話のことも。 私のこれまでの人生のどこにも、彼の姿はないのに、彼が話す彼の記憶の中には、いつも私たちがいる。 いや、きっとこう表現した方が正しい。 彼の人生には、私たちしかいないのだ。
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