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彼が言っていた通り、電話を切ると、まるで何事もなかったように、私は自分の部屋で目覚めた。 右手に携帯電話を握り、テーブルには、電話を掛ける前に入れたコーヒーがまだ湯気を立ててそこにあった。 電話を掛けている間、どうやら現実の世界は止まっているらしい。 だから、母は家族の誰にも怪しまれることなく、知られることなく何度もあの世界に行くことが出来たのだろう。 母にとって、彼がどういう存在だったのかはまだわからないが、少なくとも、残されていた電話番号の謎はわかった。 それから、きっと母がそうしていたように私は、事あるごとに彼に電話を掛けるようになった。 頼れる友人もいない、恋人もいない、家族も離れた実家に住む父しかいない私にとって、何か悩みごとを相談したり、愚痴を吐ける相手は、彼しかいなかったのだ。 彼は、私が話すことにいつでも的確なアドバイスをくれた。 彼のアドバイスの通りに行動すれば、不思議と何もかもが上手くいく。 仕事も、日常も、恋も。 そして、二年の月日が流れ、私は今日、結婚式を挙げる。 「円が結婚か…なんか、ちょっと寂しくなるね」 「もう、お父さんと同じこと言ってる」 「ははっ、いや、本当に…素敵な人に出会えて良かったね」 「…あなたのおかげよ、全部」 そう。 全部、彼のおかげだった。 誰にも話せない、秘密のパートナー。 「おめでとう、円」 「…ありがとう」 いつも、手を振って別れる時、見えないはずの彼の表情が少しだけわかるような気がするのは何故だろう。 彼は、寂しそうに笑う人だ。 私には、そんな気がする。
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