4人が本棚に入れています
本棚に追加
9
その日は、心地よい風の吹く快晴で、絶好の散歩日和だった。
ほんの少し、寄り道をして帰ろう。
ちょうど、そろそろ桜の咲く頃だし、運河沿いの桜並木を通って帰ろう。
ちょうど担当の先生にも、少しの運動ならしてもいいと言われたばかりだし、この道なら、家まで遠回りというほどの距離でもない。
軽い気持ちで、私は買い物帰りにいつもと違うルートへ足を踏み入れた。
五分ほど歩いて、もう家の外観が見えるほどのところまで来た時、腹部に、違和感を感じた。
一歩踏み出すごとに、その違和感は、痛みへと変わっていく。
「………っ……!」
あぁ、駄目だ。
早く家に帰らないと。
でも、もう足を踏み出せない。
「はぁっ………あぁっ…!」
地面に倒れ込んだ私のそばを、こんな時に限って誰も通る人はいない。
誰か…誰か助けて。
この子達を助けて。
お母さん…
意識を失う直前、私の目には、舞い落ちてくる桜の花びらと、しゃがみこむ誰かの影が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!