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おもうがまま
10年前、宮中で政戦があった。
戦ったのは私と甥。
どちらも藤原家のものだった。
私には兄がいて権力者だった。
弟の私には権力を握り、栄える機会など
巡ってくる筈もなかった。
だが、兄が死んだ。
悲しい気持ちもあったが、
それ以上に歓喜した。
やっと機会が巡ってきたと、
歓喜した。
そこで、戦うことになったのは
私と兄の息子、つまり甥だ。
私は毎日の仕事を淡々とこなしてきた。
栄華の機会を諦めても、せめて力は欲しかったからだ。
甥は若くして高い位に就いた。
兄の権力が働いたのだろう。
そのせいで周りから反感を買っていた。
そこを見逃さなかった。
尊の方の御母君に尊の方への意見を頼んだり、
娘を才女に教育させ尊の方に嫁がせたり、
汚名と罪を甥に着せたり、
利用できるものは総て、
利用した。
そして、私は勝利した。
全てを手に入れた。
栄華を極めた。
この世は全て私の思うがままだとさえ思った。
そう、全ては私のものだ。
それから、寂寥に襲われるようになった。
皆私に媚びへつらう。
そこに有るのは私を恐怖する者と、
成り上がろうと野心を抱く者だ。
私は人を信用できなくなった。
私と同じようにあらゆる手を使って全てを手にいれようとする者がいるのではと、恐怖した。
疑心暗鬼になった。
心が休まるときはなかった。
だから、私は決意した。
この経験を子孫に伝えようと、
決意した。
心が枯れないように、せめても子孫は人を信じられる人間になるように。
固く決意した。
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