兄弟

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兄弟

10年前、ある闘争があった。 白氏と赤家の闘争だ。 私は白氏の棟梁で、青年時代に親を始め家族を 赤家に殺された。 自分も殺されそうになったが、どうにか殺されずに済んだ。 それから私は預けられた場所でそっと息を潜め 白氏の復興を狙った。 弟達にも連絡し、共に戦おうと軍をつくった。 戦いは激しかった。 だが、貴族の色に染まっていた赤家は 戦力はあったものの、戦略がなかった。 そんな戦いの中でも 最も武功を挙げ、その天衣無縫の戦い様と カリスマ性で周りを惹き付け 白氏の最前線を連れた者がいた。 牛若だ。 兄上!共に赤家を討ちましょうぞ!! そう無邪気な目で此方をみる牛若を 今でも憶えている。 牛若は武功を挙げ続けた。 崖を馬で下るなど、無茶なことをやっていて 心配だったが…… そして遂に、赤家を追い詰めた。 相手の挑発も真っ当な手段で返し、 赤家の得意な海上戦にも挫けなかった。 海上の船を瞬くうちに八艘も飛んだらしい。 ほんと、心配…… 牛若の活躍もあって赤家は滅亡した。 遂に、父上達の無念を晴らしたのだ。 だがここで、一つ問題が起こった。 このままでは白氏が二分する。 私と牛若で二分してしまう。 牛若は水晶のごとく純粋無垢だ。 その穢れなき(まなこ)は宝石の様だ。 だからこそ、利用されてしまうかもしれない。 そうはならないことを祈った。 牛若が尊の上から冠位を授けられたと聞いた。 尊の上から冠位を頂く。 それは、直属の部下となることと同義。 私の顔は青ざめた。 このままでは白氏が二分する。 牛若を鎌倉に入れることは出来なかった。 白氏の棟梁として、それは出来なかった。 私の周りでも牛若を支持する声が聞こえてきた。仕方がなかった。 牛若を討つ命令を下した。 私は冷徹だ。 白氏の棟梁として、 まとめる頭として、 白氏の益になる選択をしてきた。 その為なら同族さえ殺した。 だが、牛若を殺すなど…… 命令文を書く手が震えた。 自分を殺した。 牛若は奥州藤原氏のところへ逃げ込んだ。 藤原の4代目と交渉し牛若を奇襲した。 牛若は自害した。 煌々と燃える()のなかで。 主人の最期を穢さすまいと、 その一身に矢を受けそれでもまだ倒れず 最期まで立ち続けた男もいた。 これで、白氏は安泰のはずだ。 これで良かったはずた。 なのに、涙が滲む。 涙など武士の恥と堪える。 弟を殺した。 その罪悪は私を食らう。 私は白氏の棟梁だ。 だが、その前にひとりの人間であり、 ひとりの兄だ。 ただひとりの牛若の兄だ。 何故そんなことに気付けなかったのか。 私は後悔した。 牛若を愛した女の舞を観て、 心は荒む。 自己嫌悪する。 子供のように八つ当たりをした。 私は牛若の、いやひとりの人間として 失格だ。 だから、もうこんなことを繰り返すまいと 決意した。 せめても子孫は自分を自分で縛らないように、 役に囚われないようになってほしい。 そう祈った。
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