20人が本棚に入れています
本棚に追加
仲間に見つかったら、何を言われるの?とは明里は聞いてこない。まるで自分の気持ちを見透かしているのだろうか、とさえ思う。そう、確かに、理由を話すのはなんだか格好がつかないのだ。
山南は半年ほど前、大坂での捕り物の際に左腕を斬られた。命に別状はなかったが、北辰一刀流免許皆伝の腕前はすっかり鳴りを潜めてしまっていた。
そんな言わば「お荷物隊士」の自分を局長の近藤はいまだ副長職として重用してくれている。かつて人からは文武両道だと評されたこともあったが、その「文」の方を隊のために役立ててほしいと。
「せやけどな」
明里の言葉で、山南は我に返った。なんだい?と尋ねると、明里はふわりと笑みを浮かべた。
「山南はんが、何かお悩みなんでしたら、なんでもうちは聞きますえ。うちは部外者かもしれんけど、部外者だからこそ話せることかてあると思いますから」
「ありがとう。でも、特に悩みとか、そういうことはないんだ。そりゃあ、新選組の仕事は骨の折れることも多いから疲れたり、息抜きしたいと思うこともあるけれど」
「ほな、うちはいつでも山南はんの息抜き相手になりますえ」
明里の笑顔に、山南は「ありがとう」と声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!