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山南は、片手での素振りを続けた。右腕ばかりが太くなって、左腕はいつか骨と皮だけになってしまうのではないかと想像したら、少し体が震えた。
(そんな姿になったら、明里に会いに行くことはできないな)
山南は手を止めた。いつの間にか「明里にどう見られるか」ということの重要度が自分の中で増していることに気づいた。
自室に戻ると、手紙が届いていた。明里からの、艶文であった。
――山南はんとおると、うちは仕事やいうことを忘れてしまうんですえ。また、来ておくれやす。
遊女に本気になったら駄目だと、若造の頃に道場の先輩に言われたことがある。彼女たちが送ってくる艶文だって、所詮は金づるを繋ぎとめるための社交辞令なのだから。
これ以上、進んではいけない気がした。
ただでさえ、自分は以前の半分も新選組の役に立っていない。遊女に肩入れしている場合ではないのだから。
そうかと言って、何も言わずに会いに行かなくなるのも不義理か、と思い山南は最後に一度だけ明里に会いに行こうと思った。
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