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なつきは、「あい」と返事をすると、すでに書いてある手紙の束を持って部屋を出ていった。それと入れ違うように、「明里さん、入りますよ」と声がした。
「ああ、お初はん、そろそろ支度の時間やもんね。えろうすんまへん。こないなこと、本業やないのに」
いえ、構いませんよ、とお初と呼ばれた女性は笑顔を見せた。明里の身の回りの世話を手伝ってくれる女中であるが、その正体は新選組の密偵である。驚くべきことに、女だてらに新選組で男たちと肩を並べて戦いの中に身を投じているのだという。
(お初はんは、毎日山南はんに会えるんやなあ)
ふと、そんなことを思ったら、たまらなく羨ましくなった。
そうだ、会いたい。毎日でも。好きな時に、好きなだけ。そんな気持ちを文につづってみようかと思った。
「今日は町奉行所の方たちの宴席ですよね。頑張ってくださいね」
「へえ、おおきに」
(そうや、うちはどんなお客はんも笑顔でおもてなしせなあきまへんのえ)
天神になる前に、女将から言われた。身請けが確実にでもならない限り、特定の客に入れ込んではならぬと。
山南が自分を身請けして、妻でも妾でも、とにかくそういう女として選んでくれるとは思えなかった。
(なんやあの人は、どこか一線を引いてるようなところがあるのや)
毎日会えるなら、会いたい。けれど、それは許されない。
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