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「君に会いに来るのは、これで最後にしようと思う」
布団の中で、山南は明里の頬を優しく撫でながら、そう告げた。
「……なんでどす?」
明里は、思わず聞いてしまった。
頭では、山南の申し出は受け入れるべきで、むしろその方がいいということはわかっていた。だが、気持ちは追いつかなかった。
「それは……」
「もう、お会いにならへんおつもりなら、最後に聞かせてくれてもええやないの」
山南は「そうだな」と言って体を起こすと、右手で自分の左腕を握った。
「私はね、腕を怪我して、以前のように剣を振るえなくなってしまったんだ」
「え……」
明里は驚いて、自身も起き上がって山南を見た。
「新選組では一応、剣術以外で役に立てるようにと働いているが、やはり引け目はある。だから、本当はここに通う資格なんかないんだ」
「そんな……」
「君には感謝している。いい夢を、見させてもらった」
明里は、じっと黙って山南を見た。
「そう……どすか。山南はんがそう言わはるんなら、うちには止めることはでけしまへん」
今度は、山南が驚いたような顔を見せた。
「自分から言っておいてなんだが、引き留められるかと思ったよ……ほら、客は多い方が君にとってもいいだろうし」
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