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最初で最後。武士に二言あり。
こんなことをしている場合なんだろうか、という罪悪感は常にある。
その度に、これは息抜きだから、皆はもっと頻繁に遊んでいるから、そう言い聞かせてなんとか罪悪感を隅に追いやる。
山南敬助は、用意された酒をちびちびと飲みながら、彼女が来るのを待っていた。彼岸を過ぎたから、夜はなかなかやってこない。それでも、外がだんだんと暗くなるにつれ、喧騒の音も大きくなる。今日もこの島原遊郭にはたくさんの男たちがひとときの夢を求めてやってきているのだろう。
一人でここに来るのは、もう何度目だろうか。そろそろわからなくなってきていた。だが慣れぬもので、今日もそわそわと落ち着かない心地である。
禿の少したどたどしい、幼さの残る声がした。
「山南せんせ、明里姐さん来はりましたえ」
襖がからりと開き、艶やかな着物に身を包んだ明里が現れた。
「山南はん、また来てくれはったん」
ぱっと咲いた笑顔は、この薄暗い部屋をも明るくするようであった。
「また、と言われてしまうと、なんだかしつこい奴みたいに思えてくるな……」山南は苦笑いした。
「何言うてはりますの。うちは嬉しいんどす。ほんまは毎日だって来て欲しいくらい」
「毎日か……毎日は、なかなか難しいな」
「ふふ、山南はんは嘘がつけんお人やね」
明里は山南の隣に腰を下ろし、酌を始めた。
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