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 その女性スタッフは俺のセクハラ(まが)い事件以降少しして結婚のためメディア・フロンティアを寿退社した。べつに俺の事件が原因ではなく、もう退職日は決まっていたのだ。  ただ、樫木所長には呼び出しを受けた。  我孫子サテライト・オフィスには応接間のようなものがないので、普通の要件では近所の喫茶店を使う。もっと重要な案件では、丸椅子を持って行って、ビルの屋上で話す。  呼び出しは案の定屋上で、となった。  しかし樫木課長には不意打ちを食らったのだった。 「上林(かんばやし)君、きみも男の娘好きか?」  正直にいって、数瞬の間、何を樫木所長が口走っているのかわからなかった。例のセクハラ問題の訓告処分かと覚悟したところに「男の娘」ときたものだ。  しかも「きみも」……。  ──所長も男の娘好きなんですか?  それに所長は既婚者なはずだったが……。 「好きなんだろ、男の娘が」  ──ええ、まぁ、仰るとおりです。 「いや、この話で所長とかやめよう、さん付け程度でいこうじゃないか」  ──で、樫木さんもこっそり、男の娘専門店、行くんですか? 風俗。
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