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4-1
その女性スタッフは俺のセクハラ紛い事件以降少しして結婚のためメディア・フロンティアを寿退社した。べつに俺の事件が原因ではなく、もう退職日は決まっていたのだ。
ただ、樫木所長には呼び出しを受けた。
我孫子サテライト・オフィスには応接間のようなものがないので、普通の要件では近所の喫茶店を使う。もっと重要な案件では、丸椅子を持って行って、ビルの屋上で話す。
呼び出しは案の定屋上で、となった。
しかし樫木課長には不意打ちを食らったのだった。
「上林君、きみも男の娘好きか?」
正直にいって、数瞬の間、何を樫木所長が口走っているのかわからなかった。例のセクハラ問題の訓告処分かと覚悟したところに「男の娘」ときたものだ。
しかも「きみも」……。
──所長も男の娘好きなんですか?
それに所長は既婚者なはずだったが……。
「好きなんだろ、男の娘が」
──ええ、まぁ、仰るとおりです。
「いや、この話で所長とかやめよう、さん付け程度でいこうじゃないか」
──で、樫木さんもこっそり、男の娘専門店、行くんですか? 風俗。
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