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 樫木所長と俺がオフィスに戻ると、我孫子サテライト・オフィスで唯一のバイト、松田の(じじい)がわめいていた。 「若い娘も働いてるのに、なにを見てるんだ、なにを」  所長には悪いが、このサテライト・オフィスの雰囲気を真に牛耳っているのは、この松田の爺だった。なにかにつけて思い通りにいかないと怒鳴り散らす。今までに何人もがこの爺のせいで辞めていってしまった。  また、樫木所長も、この松田の息子……親子で我孫子サテライト・オフィスに務めていた……が比較的優秀なスタッフだったので、爺には強く出られない、というのもあったはずだ。ぶっちゃけた話、所長も怖かったのだろう。  謝罪などすれば松田の爺に燃料やえさを与えるだけなので、俺は無表情で席につく。 「若い娘だっている職場で、上林、あんた無神経じゃないか」  まだ怒っている。  ──以後気をつけます。  と俺が形の上では謝ると、珍しくそれで引き下がっていった。が、今後この件は蒸し返され、激昂(げっこう)の種になるだけだろう。
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