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 睦月はなかなかできる奴だった。  俺のおごりでそれなりに呑んだり食べたりするものの、おごられている立場をわきまえ、俺のペースに合わせてくる。  さいころステーキを柚子胡椒(ゆずこしょう)で味付けしたのを品よく食べながら、睦月は昨日の欠席を謝った。少々身体が弱いらしい。  ──この仕事はけっこう眼と腰に来るからなぁ。  そうですね、と睦月。「僕ももっと体力をつけようと思ってます」  見た目ではそんな感じに見えなかったので、意外だった。  ──帰ったあととか休みとか、なにか趣味はあるの?  これといってありませんね、と睦月は笑った。 「上林先輩はなにか趣味がおありなのですか?」  ──いいよ、そんな硬い口調、と言いながらも俺は睦月の下調べを念入りにしていた。男の娘風俗とは口が裂けても言えない。  ──音楽を聴くとかかな。 「どんなのですか?」どうやら、睦月はけっこう饒舌(じょうぜつ)らしい。  ──意外かもだけど、クラシックとか。 「いや全然意外じゃないですよ」  小一時間ほど呑んだり食べたりして、最後に俺は訊いた。 「そういや、こんな講座を受けたりして、どこかに就職予定はあるの?」 「それがないんです」と、睦月。「とりあえず手に職をと思いまして」  ──そうか、と俺は切り出してみた。さっき、住んでいるのは松戸と言ったね、だったら、メディア・フロンティア(うち)の我孫子サテライト・オフィスはどう?  完全に俺の独断だが、滝本社長にも樫木所長にも方面で気に入られると確信していたのだ。
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