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メディア・フロンティア我孫子サテライト・オフィス内には、汗や血、涙、それにオフィスにいるもの全員が分泌したであろうアドレナリン──と、雄くさい匂いが立ちこめていた。
松田の爺がフロアに転がって呻き、近くのデスクにあるパソコンは倒れてたぶん壊れている。この荒廃っぷりが我孫子サテライト・オフィスの裏にあったなにもかもを表徴しているかのように。
樫木所長以下、オフィスにいるものすべてがあっけにとられた瞬間だった。
足元にまだ転がっている松田とは対照的に、ジゼルは鼻血を止めようともせず──すぐ近くに箱ティッシュがあるのに──鮮血がヴィヴィアン・ウエストウッドのワンピースにぽたぽたと垂れ続けているにもかかわらず、彼女は立ち尽すだけだった。
サテライト・オフィス内に流れる趣味の悪いクラシックのチャンネル、俗悪かつ下手くそな解釈と演奏のモーツァルトのピアノソナタが、かえってこの凄惨さのサウンド・トラックでもあるかのように流れていた。
俺は有線のこのチャンネルをつねに流すのには反対していた。いわゆる名盤、名演の類のクラシックなら大歓迎なのだが、どれも音楽的にひどい出来の演奏ばかりだったのでいらついたのだ。
かといって洋楽やJ-POPなども困る。
たぶんあるだろうから、小鳥のさえずりや川の水流の音などの自然音のチャンネルを流すか、まったくの無音か、どちらかがよかった。
実際にJ-POPだったときもあるにはあったが、例えば原稿の校正作業のときに、日本語の歌詞の音楽が流れるというのはとても作業がしづらいものだった。
しかし、そんな不満も今日で終わりかもしれない。
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