1/1

93人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

弁当を一口も食べることなく、佐竹は椅子にもたれていた。目の前に展開された黒板の前には1軍の男女が揃っている。大きな笑い声でおかしなことを共有する福瀬は集団の真ん中にいた。少しでも話の内容が分かれば笑えたのかもしれないが、今の佐竹には誰の言葉も鮮明に聞こえない。両耳の周りに蓋をされている感覚だった。 どうやら早川も会話に参加しているようだった。教卓を挟んでおかしなことが彼女に伝染する。甲高い声で笑う彼女の声が、今は耳障りだった。 居場所が無くなったように思えてトイレに向かう。一番奥の個室に入って鍵をかけ、音のくぐもった空間の中、佐竹は立ち尽くした。 早川はあの後、セックスをしたのだろうか。彼女の胸は大きいのか、張りのある尻をしているのか、どんな声で喘ぐのか、どんな姿であの男を受け入れるのだろうか。妄想の中で強がった佐竹はファスナーをおろして項垂れたままのペニスを露わにさせた。千切り取るように掴んで扱く。瞼の裏で乳房を揺らしながら喘ぐ早川を思い描いたが、彼女の顔以外全てが靄にかかった幻のように見えてしまう。いくら彼女を犯そうとしたところで全ては偽りなのだ。 快感もなく、自慰行為が苦痛だと感じたのは初めてだった。次第に声にならない声が漏れる。蓋がしまった便座を濡らしたのは、佐竹が零す大粒の涙だった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加