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「今日どうしたの。元気ないじゃん。」 小さい円形のテーブルに学習帳を広げ、福瀬は水玉模様のシャーペンを右手に持っていた。くるくると回してはいるものの何度かテーブルの上に落ちていた。不規則な音を立てて転がり落ちるシャーペンを拾いながら言う。 「あのさ、何かあったら私に相談してよね。もう15年の付き合いなんだから。」 力強くそう言う福瀬だったが、何故か彼女にすら苛立ちを覚えてしまう。彼氏がいるであろう福瀬に自分の気持ちが分かるのだろうか。天井を眺めながら佐竹は何も答えなかった。ノートに漢字を書く音だけが室内に響く。このまま帰ってくれないかと期待しながら佐竹は仰向けの状態を保っていた。 しかし時間が経過していく毎に冷静さを取り戻しつつあった。福瀬に腹を立てたところで仕方ないのだろう。いくら幼馴染といえど2人には格差がある。1軍の男女と楽しみながら会話をする彼女にとって、1人の女子生徒と結ばれないと落ち込む佐竹の気持ちは理解できない。これは仕方のないことなのだ。1軍のプロ野球選手が2軍の選手に寄り添う暇が無いのと同じで、日々様々なことを楽しむために忙しいのである。天から垂れる蜘蛛の糸は常に1本だけなのだ。 「ねぇ。ちょっと聞きたいんだけどさ。」 ノートを閉じてシャーペンを置き、福瀬はこちらを向いた。横目で一度だけ見て視線を天井に戻す。薄めた水色のワイシャツに濃いネイビーのネクタイ。それらを隠すように黒い袖無しのセーターを着た福瀬がベッドに近付いてきた。香水ではない、甘い柔軟剤の匂いが香る。 「もしかして茜ちゃんにふられちゃった?」 何故分かるのか、咄嗟に真横を向いたものの、すぐに視線を戻す。佐竹は恐る恐る言った。 「なんで早川さんのこと好きだって知ってるの。」 彼女に相談したことはなかった。福瀬は少し吹き出すように言う。 「だって颯太の目見たら分かるよ。いつも茜ちゃんのこと見てるでしょう。あれはバレバレだよー。」 毛布を叩き、福瀬は笑った。しかし今彼女にバレたところで何も恥ずかしがることはない。もう早川を思い浮かべることなく淡々と話すことにした。 「俺と同じアニメが好きらしいんだ。そのアニメのポップアップストアが渋谷にあるから昨日行ったんだよ。買い物帰りに早川さんが男と歩いていて、ラブホテルに入っていった。思いを言葉にして伝えることも出来なかったし、言葉でふられたわけでもない。昨日俺の恋は終わったんだよ。」 自分で語れば語るほど惨めに思えてしまい、佐竹は舌打ちをした。悔しさ、怒り、あらゆる負の感情がトンネルを猛スピードで駆け抜ける車のような音を立てて混ざり合っている。人はあらゆることを日々忘れていくが、きっとこの感情は生涯忘れることのない深手なのだろう。厚めな毛布の中できつく拳を握り締めた。 「そうか、それはショックだね…。」 無理に感情移入しなくとも良いのに、心の中でそう吐き捨てて天井を睨む。身に覚えのない複雑な染みは、目にする度に形を変えていく。恐竜が咆哮しているかのようなシルエットから、人が談笑しているシルエットに変わった。福瀬は少し迷いながらも言う。 「でもさ、この世界に女の人なんて星の数ほどいるじゃん?茜ちゃん以外にも颯太を分かってくれる人だっているよ。」 横目で見た時に福瀬はどこか寂しそうな表情をしていた。何故彼女が自分よりも感情を露わにしているのだろうか。ようやく自分への怒りが福瀬に矛先を向け、佐竹は深いため息をついた。感情移入も程々にしてほしい、その怒りが言葉になった時、佐竹は自分が何を言ったのか理解できなかった。 「じゃあ今俺の前でオナニー見せてよ。」 何とか繋げていたであろう福瀬の言葉が止まる。佐竹は口にしてからすぐに取り繕うかと思ったが、あえて何も言わなかった。どうせならこのまま自分を不快に感じて帰ってほしい、そんなわがままな思いすらある。どうやら福瀬は困っている様子だった。追い打ちをかけるように言う。 「いいよ、無理だろ。だから1人にしてくれないかな。どうしてか分からないけど、いくら女の人が沢山いても早川さんがいいって、そう思ってるんだよ。」 明確な答えではないものの、心のどこかでそう思ってしまっている。いくら早川に彼氏がいようとも諦められないのだ。窓の外を見ると、うっすら雪が降り始めていた。 「えっと…まぁ、仕方ないか。」 そう呟いた福瀬はゆっくりと立ち上がり、何を思ったのかベッドの上に登った。佐竹を見下ろすように跨る。焼けた足がすぐ目の前だった。華奢ではないものの柔らかそうな肉付き。もう少しで彼女のショーツが見えてしまいそうだった。何をしているのか分からずに福瀬を見上げると、彼女は少し口を尖らせてから言った。 「一応恥ずかしいんだからね。見るならちゃんと見ててよ。」 よいしょと言って彼女は佐竹の足の上に降りた。ずっしりとした感覚がある。やがて福瀬は膝を曲げて両足をぱっくりと開いた。濃いネイビーのショーツが見える。女性器特有の膨らみが小麦色の肌の間で浮かんでいた。むっちりと肉を蓄えている足のせいでより強調されている丘に手を伸ばし、福瀬は言う。 「寒いから、パンツの上からになるけど。」 チェック柄のスカートが翻り、今まで見たことのない幼馴染の艶やかな部分が部屋の中に咲いていく。パンの生地をこねるようにショーツの膨らみを撫で回し始めた福瀬は、知らない表情をしていた。あれだけぱっちりとしていた目が細くなり、とろんとしている。大きな唇が中途半端な距離で剥がれて息を漏らし、頬の裏側で蝋燭が灯っているようだった。細い指先がショーツの上で踊る。所々淫靡な声を出して、幼馴染の福瀬朱里は自慰行為に耽っていた。彼女が触れている膣の前には、毛布とスラックスに隠れた佐竹の肉樹がある。徐々に硬度が宿っていくのが分かった。 「本当は中がいいんだけど…これで我慢してね。あっ。」 もう15年以上の付き合いで、初めて見る事となる福瀬の婀娜っぽい姿。確かに小学校高学年の頃から色気を感じつつあったが、既に大人への仮免許を取得している彼女はあまりにも刺激的な姿で絶頂への坂道を登っていた。まだ子どもなのは自分だけということだろう。いつの間にか早川も仮免許を持っていたのだ。 「あっ、やばい、いきそう…。」 彼女の慣れた手付きを見て、福瀬もオナニーをするのだと知った。彼女には彼女なりの慰め方があって、どう満足するかをしっかりと心得ている。毛布に緩やかな丘が出来た時、福瀬は絶頂を迎えた。 「あぁ、はぁ…いっちゃった…。」 びくんと体を跳ねさせて足を内側に曲げた福瀬は、膝小僧の向こうで深い呼吸を繰り返しながらこちらを見ていた。剥いたばかりの甘栗のように茶色く光る足が艶めかしい。幼馴染の表情ではなく、1人の女。そう思った時にはもう我慢の限界を迎えていた。
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