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坦々と腰を振り続けながら彼女の奥を削っていく。休み時間に廊下で声をかけてきた早川、一緒に帰ろうと言ってくれた早川、図書室で同じ趣味だと分かった時の早川、一見地味な顔立ちの彼女が遠くにいる。それでもまだ消えてくれないのだから、恋した人を忘れる行為は難解だった。 しかし徐々に快感の波が襲ってくる。時折情けない声を漏らしながら佐竹は腰を打ち付けていた。 それと同時に佐竹は冷静さを取り戻した。 何故福瀬は自分を受け入れてくれたのだろうか。 もちろん今まで彼女とそういった行為はしたこともなければ、そういう雰囲気になったこともない。お互い付き合いが長いだけの男女であったにも関わらず、何故彼女は自分の要望を聞いて、さらに体を重ねることを許可したのか。そう思い始めるとあれだけこびりついていた早川茜の姿が消えていくのが分かった。 腰の動きを止めると、福瀬が上半身を起こした。それに合わせて佐竹は仰向けになる。見慣れたはずの天井がいつもと違うように思えた。膝をベッドについてグラインドさせながら息を切らす福瀬がひどくいやらしい。まるで自分が抱いた疑問を捻じ切るかのようだ。 「朱里、気持ちいい…。」 思わず漏らした言葉に、福瀬は微笑んだ。1軍に見せない色気のある笑顔。覆い被さって唇を合わせた。脳内に響くような甘い音。どうして自分を受け入れてくれたのか忘れてしまうほど濃厚な時間がゆったりと流れていく。ぐちゅっと粘液が擦れ合った。 「颯太…私またいっちゃうかも。」 今までに聞いた自分を呼ぶ声とは比べ物にならないほどねっとりとした声が耳に響く。福瀬は感じ易い体質なのだろうか。今までも色々な男の上でこう喘いでいたのだろうか。感じたことのない謎の感情が佐竹を満たした。 「よいしょっ、あっ。」 膝を曲げて両足を開き、2人を繋ぐ結合部が露わになる。それを見て佐竹は目を疑った。 「なぁ、朱里。お前初めてなのか。」 佐竹の肉樹を頬張る口の端から、赤い線が延びていた。小麦色の肌を刻むように滴っている血が佐竹の腰に落ちる。とっくに1軍の誰かと行為を済ませていると思い込んでいた為に驚きを隠せなかった。ぴったりと腰を密着させて彼女は微笑んだ。 「これで、茜ちゃんの事忘れられるよね。」 何を言っているのか分からず困惑してしまう。彼女はセーターを剥いでワイシャツのボタンを外しながら続けた。 「この日の為に処女守ったんだよ。私さ、昔から颯太のこと大好きだったの。ずっと愛おしくて。中学だって高校だって、颯太と一緒じゃないと嫌だった。」 予想だにしない告白だった。どうしていいか分からない佐竹を見下ろして、福瀬は涙を流し始めた。にっこりと笑った大きな口の端に涙がかかって、舌先で舐める。 「ずっと颯太とセックスしたかった。ごめんね、今まで颯太を想像しながらオナニーもしてたの。だからさっきオナニーを見せてって言われて、本当は嬉しかった。ずっと、ずっとこうしていたかった…。」 ネイビーに彩られたブラジャーをずらして、膨らんだ乳房が露わになる。自ら胸に手を添えている福瀬の姿はまるで自分を使って自慰行為をしているようにも見えてしまった。 「茜ちゃんの事が好きだって気が付いたのは5月だったかな。颯太が茜ちゃんの事を見ている以上に、私は颯太を見ていた。だからすぐに分かったよ。最初はどうしたらいいか分からなかった。こんな言い方はあれだけど、チャンスが巡ってきたのかな。だから落ち込まないで。」 そう言って福瀬は大腿部にかかる血を指先に絡め取り、佐竹の頬を撫でた。 「もう大丈夫。私がいるから…。」 記憶にない幼稚園児の思い出が映し出される。そうか、福瀬は少し前に語っていたあの時に、自分に惚れたのだ。それから12年余りもの間耐え忍んだであろう福瀬の笑顔が少しだけ恐ろしく見えてしまう。しかしもう戻れない。佐竹は幼馴染だった福瀬朱里の笑顔を見て深々と射精してしまったのだ。みっともない声を途切れさせながら足の付け根がびくんと痙攣する。見ずとも理解した福瀬は血を頬に刻み込んで佐竹の頭を撫でた。 「これで颯太は私だけのものだね。」 まるで母親のように自分の背を叩いたり、視線を気にすることなく部屋で寝そべっていた福瀬朱里の姿は、もうどこにもいない。ゆっくりと視線を剥がして窓の外を見た。 絶え間なく街に注がれる雪が、ひどく綺麗だった。
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