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「うわー。これ懐かしいね。」
薄茶色の本棚から少し厚めの本を抜き取り、福瀬は中に目を通していた。ベッドに腰掛ける佐竹は彼女が持つ本の表紙を見て言った。
「それ前も見てただろ。大体幼稚園の時の思い出なんてあるのか。」
「そりゃ色々あるよ。」
部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルの向こうでうつ伏せになり、卒園アルバムのページを捲っていく。チェック柄のスカートはかなり短く、翻った裾から小麦色の大腿部と薄いピンクのショーツが覗いていた。ため息をついて携帯を手に取る。伊藤と葛城から勧められたソーシャルゲームを立ち上げて言う。
「思い出振り返るのもいいけど、パンツくらい隠せよ。」
「あら、見たの。変態。」
無造作に手で裾を直す。程良い肉付きのある太ももは幼馴染ながら確かに十分なほどセクシーだ。しかし彼女の肌は見慣れたものだった。ソーシャルゲームのオープニング画面が映し出される。
「ほら、颯太覚えてないの。私がいじめられていた時。」
そんなことがあっただろうか。黙り込んで記憶のファイルを探る。福瀬は卒園アルバムに目を通したまま続けた。
「砂場で遊んでいた時に、私が作った泥の城を男子が蹴り崩したの。それで怒ったら叩かれて。それを見てた颯太が助けてくれたんだよ。取っ組み合いになって逃げ出した男子たちを背に私の顔を泥だらけの手で撫でて、もう大丈夫。僕がいるから…って。ヒーローみたいに。」
「そんなことあったっけ。」
携帯の画面の中で色とりどりなキャラクターが蠢いている。福瀬はぺらぺらと捲りながら言った。
「あの時はかっこいいと思ったのに、今じゃソシャゲ三昧だもんなぁ。」
目だけ上げると、福瀬はこちらを細目で見ていた。鼻から息を抜くように笑って言う。
「そりゃ10年も経てばヒーローだって年老いていくだろ。」
「ウルトラマンは2万歳だけどね。」
一旦静まり返り、2人は同時に吹き出して笑った。
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