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午前七時三十分 1
大場裕也は一言でいうと地味な男子高校生だった。
成績は中の上下を行き来し、運動も並み。人の目を惹くような容姿の持ち主ではなく、中肉中背。黒髪を短く切りまとめ、年頃並みのニキビを抱え、女子の太腿につい目が行きがちで、とりあえず大学でも行っとくかなぐらいの考えで受験に挑もうとしていた。
そんな彼にはもちろん好きな女の子がいた。
弓削桂里奈。同級生の中でもとりわけ可愛い女子である。
性格は明るく、人当たりも良い。誰とでも仲良く喋る反面、本命が見えないが故に皆が手を出しあぐねていた。
その桂里奈に、裕也はアタックをしようと考えていたのだ。
「やめとけよ。お前じゃ釣り合わんって」
友人の湖東亮平は鼻息荒い裕也をたしなめるように言った。
「いや、俺は告白する。弓削さんに告白する」
「勝ち目のない戦いだぞ」
「そんな事やってみなくちゃ分かるものか。知ってるか? 十六歳以上の人間は、将来結婚する相手とすでに出会っている確率が高いんだ」
「……相変わらずしょうもない知識があるな」
「つまり、弓削さんが俺の運命の相手かもしれないじゃないか!!」
「果てなきプラス思考には敬服する。けど、弓削さんの立場になってみろ。お前と付き合ったって、何の得もないだろ?」
「恋は損得じゃねぇ!!」
力強くこぶしを握り締める裕也の姿を見て、亮平もあきらめたように一つ息をついた。
「まあ、どうしてもってんなら協力するさ」
「ありがとよ、親友。けど、俺は一人でやり遂げて見せる。そのために、呼び出しの手紙も書いて来た」
「古風オブザイヤーかよ」
力強く握って皴がつきつつある手紙とやらを眺めながら、亮平は彼の行動力に細やかな感動を覚えていた。同時に、その友人が無残に敗れ去る様を見たくないとも感じていた。
「なあ、もう少し外堀を埋めてからでもいいんじゃないか?」
「いや、明日、何がどうなっているかなんか分かんないじゃないか。全てが手遅れになって後悔するのだけは嫌だからな」
「……ドラマとかの見過ぎじゃないか? 明日なんて今日と大して変わんねぇよ」
亮平はたしなめるようにそう言った。実際、空には青空が広がり、雨の降りだす気配すらない。気候も含めて実に穏やかな朝だった。
「にしても、だ。俺は今日、弓削さんに想いを伝える。この決意は変わらん」
「真っ直ぐオブザイヤーだな。まあ、頑張れ」
「ああ、頑張るとも。ありがとな、しんゆ……」
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