午前七時三十分 2

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午前七時三十分 2

 弓削桂里奈は通学路を友人の宮下つぐみと歩いていた。 「いい天気だねぇ」  空を見上げた桂里奈は、そう言ってうーんと大きく伸びをした。 「ほんと、いい天気。それにさ、ネットニュースとかだとさ、物騒な事ばっかり言ってるじゃない? でも、実際のところは穏やかだよねぇ」 「そうよねぇ」  見上げた空には白い雲が浮かび、ゆっくりと西から東へ流れている。 「……つぐみちゃんてさ、大場君のことどう思う?」  不意に桂里奈がそんな事を尋ねた。つぐみは少し驚いたように目を丸くしたが、しばし間をおいて口を開いた。 「普通とつまらないと地味を鍋で一緒くたに煮込んで、隠し味にややエロと微かにうぜぇを小さじ一杯ずつ足した感じかな」 「……それは……良く無い評価?」 「まあ、良くは無い。悪すぎもしない。平凡という名のトーストに、やや駄目ジャムを薄く塗ったってとこ」 「……つぐみちゃんは前衛芸術家か何かなの?」 「あり触れた一人の家庭科部員よ」 「私、家庭科部ではやって行けないかも」 「大丈夫よ、先輩がレクチャーしてくれるから。で、大場君が好きなの?」  謎の言い回しという煙に巻かれたかと思えば、突如飛び出してくるあまりに直接的な一言。そのギャップに桂里奈は覿面うろたえた。それを見たつぐみは、なるほどと言わんばかりに大きく頷いた。 「なんで彼? 私にはどこがいいのか良く分からないのだけれど……」 「え……うーん……。そうね、話してみると楽しい人だし、優しいもの。後ね、なんか色々面白いこと知ってるの。人類初のラブレターは四千年前に書かれたんだって。知ってた?」 「……その雑学をあなたの前で披露した鋼のメンタルは評価に値するかもね」 「最初は変な人って感じだったんだけど……」  気づいたら好きになっていたの、と消え入りそうな声で桂里奈は付け加えた。その顔は言うまでもなく真っ赤だ。 「なるほど、学校でも人気の美少女の欠点は、男の趣味だったのね……」  深々とため息を吐いた後、つぐみは桂里奈に笑顔を見せた。 「桂里奈が好きってんなら、私協力するわよ」 「あ……ありがとう」 「ただ、その恋心はあまり気付かれないようにね。大場君が刺されて死ぬから」 「……うん」  不承不承、といった様子で桂里奈は頷いた。 「しかし、桂里奈にも本命がいたのねぇ」  そう言いながらつぐみは空を仰ぎ見る。 「ええー? それ、どういう意味よぉ」 「どうって……ん? ねえ、桂里奈、あれ……」 「えっ……?」
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