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最終章
「え?」
キミは驚いた顔をして、その拍子に持っていたタバコを落としてしまった。タバコは赤い火花を散らしてカウンターの上に落ちた。
「おっと、危ない危ない、ごめんね」
「大丈夫だよ。キミこそやけどとかしてない?」
「うん、大丈夫」
「なら、良かった」
慌ててキミはタバコを拾い、灰皿の上で火を消す。しっかりと火を消し、カウンターの上の灰をおしぼりで拭いた。あらかた綺麗にしたのちにキミはこっちに向き直り、ボクの目を見て
「今なんて言った?」
「え、いや良かったって。」
「じゃなくて、そういうのいいから」
「ははは、あの頃に戻りたいって言ったよ」
キミの目を見て、そう思った。キミの香水のせいで思い出した。素直にそう思った。
「え、じゃあさ私たちやり直さない?」
そう言うキミの頬はうっすらと赤くなっている、いやその前から赤かった気もする。照れているのか、酔っているのかは分からないけど勇気を振り絞って言ったのは確かなようで、キミの手は少し震えていた。
突然の告白にボクは動揺してしまった。キミがボクの元に帰って来てくれる。またあの頃に戻れるのか。そんな楽しいことがあってもいいのだろうか。昔と同じ二人になれるなんて最高………なのだろうか?
「ごめん、それはできないわ」
無理だ。またあの頃に戻るには3年という月日はあまりに長すぎた。キミは変わってしまった。ボクは空っぽになってしまった。いっぱい詰まってるキミじゃ、軽いボクのように浮けない、一緒に歩けないよ。
「そう言ってくれてうれしいんだよ?でも今のボク、いや、今というか、うん、えーと、だから…」
言葉にしたい思いが溢れては独りよがりな意見なのでは、と思い言葉に詰まる。そんなボクを見かねてキミは
「分かったから、そんな気を使おうとしないで。悲しくなる」
「あ、ごめん」
「謝らないで」
「あ、ごめ…うん、分かった」
キミはよし、と言って、グラスに残っていたお酒を飲み干して、立ち上がる。
「それじゃ、出ますか!」
「そうしますか」
そして、振ったんだからとキミに強要されてボクがお会計をし、店を出る。
「あー、今日は楽しかった。ごちそうさま」
「思わぬ出費だよ、まあいいけどさ」
「こんないい女を振った罰です」
「はは、すいませんね」
「あーあ、せっかく昔の香水までつけてきたのに」
「あ、やっぱり?」
「気づいてたの、それなのに振るとかありえないわー」
「ごめんね、別にキミを求めてないからさ」
「なにそれ、むかつく」
2人して笑う。
「じゃあね」
キミは素敵な人だよ。また好きになるぐらい。
でもまた同じことの繰り返し。になるかどうかはわかんないけど、ボクが振られる気がするな。
「ばいばい」
キミの香水のにおいが薄くなっていく。
悲しくはないけど、なぜか涙があふれてきた。
ああ、思い出したよ。
「ドルチェ&ガッバーナだ」
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