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『ほんまじょーずな人ってなぁ、女の腰、抜かす』
うっとりと接吻を語っていた。たまげたのはあたしだ。
“痛み”を知りながらも、どの芸能人がかっこいい、など無邪気な好意を語れる彼女に、救われた思いがする。
自分の分も恋をして欲しいと、願う。
そういう人に限って良縁は得てして巡らない。
いい男おらんかなぁ、は彼女の口癖だ。
「やからな、……香枝。聞いとんの?」
はっと我に返る。目の前のクリームソーダは水滴まみれだった。
「やーっぱ、聞いとらん」
頬をぷく、と膨らます彼女に、ああ、なになに、と答える構図。あたしは完全に男役だと思うが、これでも一応女子大に通っている。
「やからな、知り合いがバイト募集しとんねん」
「……バイト」背筋が寒くなる。
あたしがあんな目に遭ったのは、『わきあいあいとしたバイト』のせいだった。警戒心がことごとく欠如した愚かしさにもあったのだが。
一人暮らしでお金は必要。あれ以後、大学生が多そうな居酒屋飲食系は避け、女性のみのテレアポのバイトをしている。が、牛耳るお局に辟易して、一刻も早く辞めたい精神状況。
「店長さん、めっちゃかっこええんよ」
「かっこいいとか興味無し。美人を出せ、美人を」
「一生、このままでおるつもりなん?」
饒舌彩夏が身を乗りだした。
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