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 テーブル全卓、真ん中に炭火コンロが埋め込まれている。    これが、厄介物。    適宜奥にお水を足さねばならないし、客が変わる度に炭を総とっかえ。    入れ方にも、コツがある。    円形の火の元を、一度火のついた炭、消し炭で囲う。空気の通るスペースを空けつつ、黒い炭を足していく。    順番、バランスを間違えると、火は上手く燃えない。    テーブルを片す際も捨てず、消し壺に保管。灰になるまで何度も再利用。    当初は貧乏臭く思えたのだが、そんな事情があったらしい。割高な紀州備長炭、無駄には出来ない。    網の交換も頻繁。一組あたり1、2回が平均。    塩物から焼かない輩は、網を替えろと直ぐ言いつける。    こちらは注文内容から察しているから、笑顔で応対する。    上ミノタレから焼くなんて、お前は馬鹿かと思いつつ。    一万円おごるとは、健気な男だと思った。    焼き肉後にホテルなんざ行ってたら、失笑もの。     「お先に失礼します」    あたしは一番最初にこの店をあとにする。時刻は11時を過ぎた。    怖いのは終電ではない。たった一駅、1時前まで平気。最悪、タクる。    恐ろしいのは、闇。
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