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 駅からアパートまで徒歩8分。    自意識過剰。幾度も振り返り、辺りをしつこく見まわす。    後ろを歩くカップルと目が合った。なにこいつ、って視線を浴びた。    帰宅後どちらかの部屋で睦みあうであろう、彼らには分かるまい。    この道筋がどれだけ恐ろしいか。    裏道を避け、明かり多い表通りを選ぶ。    足音に過敏。男が歩く。一人。大きいヘッドホンをつけた大学生風。足を速める。携帯をぎゅっと握りしめる。    一時は走っていた。夜道を歩けなかった。  だが人間は慣れるもので、また、思いのほか疲れるから、全速力は続かなかった。    鍵を開けて扉を閉めると、毎度寄りかかり、安堵の息を吐く。    鼓動が異様に速い。背を預けたままずる、ずる、としゃがみこむ。    見あげた天井はあの部屋と似ている。吐き気をもよおす。    口許を覆い、思考を閉ざす。    すると突然、瞼の奥に自分を見た。
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