1611人が本棚に入れています
本棚に追加
駅からアパートまで徒歩8分。
自意識過剰。幾度も振り返り、辺りをしつこく見まわす。
後ろを歩くカップルと目が合った。なにこいつ、って視線を浴びた。
帰宅後どちらかの部屋で睦みあうであろう、彼らには分かるまい。
この道筋がどれだけ恐ろしいか。
裏道を避け、明かり多い表通りを選ぶ。
足音に過敏。男が歩く。一人。大きいヘッドホンをつけた大学生風。足を速める。携帯をぎゅっと握りしめる。
一時は走っていた。夜道を歩けなかった。
だが人間は慣れるもので、また、思いのほか疲れるから、全速力は続かなかった。
鍵を開けて扉を閉めると、毎度寄りかかり、安堵の息を吐く。
鼓動が異様に速い。背を預けたままずる、ずる、としゃがみこむ。
見あげた天井はあの部屋と似ている。吐き気をもよおす。
口許を覆い、思考を閉ざす。
すると突然、瞼の奥に自分を見た。
最初のコメントを投稿しよう!