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しちゃ、しちゃ、と卑猥な音が部屋中を埋める。蛆虫が血管をはいずりまわる。
顎を下げれば直ぐそこには、ワックスの茶髪、皺だらけのシャツ。彼が口に含む度に自分の胸は縮みあがる。こんな行為をされるがままにされてること自体が、信じられない。
「気持ちいいでしょ、重山(しげやま)さん。イイ顔してる」
胸元から顔をあたしの正面に戻した男は、
「うぐうっ」
ヤニとアルコール。生温かい気持ち悪さが口内に侵入する。嘔吐物でも飲まされてる。奥に引っ込めても執拗に絡め来る舌。こんなに不快で気持ち悪いものをあたしは知らない。
両手は絶えず直に乳房を撫でまわす。奴の唾液いっぱいに濡れている事実に気づき、また一つ悪寒が走る。
「すげえ、柔らかくなってる。自分で分かります?」
今すぐ吐きたい。白む意識、舌を噛み切りたい。
「俺の、こんなんなってんの」
右手を下方に持ってかれ、恐怖のあまり上を向いた。と、強い視線を感じる。顎をそり返して向こうを見ると、目が合った。
この場を覗き見している男と。
「生で触って下さいよ、ほら」
かちゃかちゃ、とベルトの外れる音。ガラス戸は閉じた。だが離れないすりガラスの影。
屈辱と羞恥と死にたいが埋め尽くしたその時――
「たっだいまー」
玄関先から声が割って入った。途端、男はあたしの上から退いて、身支度を整え始めた。
「おかえりぃ、サキちゃーん」
先ほどとは打って変わった声色で、返事をした。
つい先ほどまであたしを犯しかけていた男が。
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