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時間は午前1時を10分過ぎた。場所はこいつの安アパート。
ガラス戸で仕切られた1DK。うちまでどうやって帰れるか、道筋を知らない。
あたしと距離を詰める奴は、嘲りを顔に貼りつけている。
「返して、くれませんか、それ」
「香枝(かえ)ちゃんが俺の言うこと聞いてくれたら」
下の名前で呼ぶんじゃねえよ。
「明日早いんで、もう帰ります」
さっきのあいつと同じ目をしたこいつに殺意を覚える。
「浅岡に出来て、俺には出来ない?」
なにサカってやがる、このうすらデブ。
たぎる脳味噌とは対照的に、冷静口調に努めた。
「四人で買い出し行ってたんですよね。てか、浅岡さんとサキさん……あと、伊藤さんもどこ行ったんですか」
「あ、知らなかったっけ。浅岡とサキちゃん行ってんの、」
小指を立てて何故だか奴は笑い、
「ラブホ」
頭を鈍器で殴られた衝撃を受けた。
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